諦めるという選択肢
私たちは周辺の警戒を怠らない。
「あれは……うちの陣営だな。旗役を必死に守ってるぜぇ」
「加勢しにはいかないのか?」
「行きたいが、俺がいってるときにお前がやられたら元も子もねえだろ。誰かを捨てる選択肢も取る必要が今後ありそうだし、人数差ではうちが勝ってるみてえだから大丈夫だろ」
ということでクリンズはいかないという意思表示をしていた。
私は目を前に向けると、何やら人の気配を感じた。ちょっとゾクっとしてしまった。何かが来る。ここはまずいかもしれない。
私はクリンズのほうを向き、誰かが来ると告げた。
「ちっ、逃げるぞ」
「逃げるったって……」
と、私たちが逃げようとした時だった。
私の横を矢が通る。矢はクリンズの脇腹に当たっていた。相手に気づかれてしまったようだ。私は石の裏に隠れる。
「……敵は一人じゃねえみてえだ」
と、クリンズは少し冷や汗をかきながら言っていた。
「しゃあねえ。お前、頑張って一人で逃げてろ」
「……クリンズ、なにするつもり」
「死ぬ覚悟で突貫して時間稼いでやる。さっさと逃げろ!」
「……わかった」
私はそのまま走り出したのだった。
背後では叫び声と共に、クリンズが敵の集団に突貫していく声が聞こえてくる。私は、カイザーやアカシ、クリンズの犠牲のもと生き残ってしまっている。
だがしかし、このゲームはそういうことだ。私が取るしかない選択肢は生き残ること。それに限る。
「一人でどこまで逃げれるか……」
全速力で突っ走る。
こうやって全力で走っているのはいつぶりだろうか。私は翼をもってから走ることはなかったからな。こうやって走るのも新鮮だな。
私は走っていると、目の前には青陣営のやつらがいた。私はブレーキをかける。
「黒の旗だ! 打ち取れ!」
「ちっ」
この状況はひたすらにまずい。
誰も私を守る人がいない。私は無防備のままだった。どうやって切り抜けるか。人数は6人。囲まれてしまっている。
退路もなければ進路もない。
「温存しておきたかったんだけどな!」
私は空を飛んだ。
全速力で空を飛ぶ。だがしかし、奴らが放った矢が翼に当たり、私はバランスを崩して地面に墜落したのだった。
まずい。この状況はまずい。私自身、攻撃ができない。アイギスの盾で守りたいが、あれも一応攻撃と判定されてしまう。カウンター技もだめだとすると、本当にまずい。
「はーっはっは! 追い詰められてるようだね! シグレくん!」
「ミコト……。お前青陣営かよ」
「そうともさ! ここまで追い詰められた表情を見るのは初めてだね。だが、同じグループに所属する情けとして、ボクがこの手でキルしてあげようじゃないか」
「……」
ミコトはノヴァという爆発魔法を使う。隙が大きいが、範囲威力共に絶大だ。ステータスがアップしているとはいえ、受けきることはできないだろう。
私はここで死ぬのか。ミコトの手によって。あきらめる……。いや。私は。
「あきらめるわけにはいかない……。私はまだ死んでない」
考えろ。この場から逃げる方法を。
「はーっはっは! 終わりさ! スーパーノヴァ! ボクの魔力最大! フルパワーさ!」
すごいでかい範囲の爆発が起きはじめる。私は距離をとるが、私のぎりぎりまで爆発が迫っていた。
これは無理だろう。逃げるすべはない。私は、あきらめるという選択肢しかとれそうにもなかった。健闘したものだ。そこは称賛されるべきだろう。
私はそのまま爆発に飲み込まれたのだった。




