不意打ち
赤陣営に入る。
「漆黒の剣士さん、シグレさんを倒してきたんですか?」
「ああ。やってきた。厄介なスキルを使うなあいつ」
「シグレさんは厄介なスキルばかりですからね」
ぽんぽこは疑いもせず私と会話している。
私はそのままぽんぽこの隣に座る。
「そういえば一緒に行った魔法使いさんは?」
「シグレを助けに来た黒陣営がいてよ。やられちまった。俺が何とか倒したけどよ……」
「お疲れ様です……」
すると、その時だった。
ぽんぽこめがけて武闘家が拳を振り下ろしたのだった。
「えっ……」
「人数少なくてよかったよ。ごめんね、騙すような真似して」
私は影マネを解いた。
ぽんぽこは私を見て、何かを察した様子。
「むううう! ずるい! ずるいですよ! 不意打ちなんて……」
「ごめんって。でも、こういう騙しあいは私は結構好きなんだよね」
「シグレさんって性格悪い時たまにありますよね!」
赤陣営も急な襲撃に反応が少し遅れていた様子だった。
でかい鎧を着た男が私めがけて振り下ろされる剣を鎧で受け止める。そして、武闘家の人はぽんぽこをキルしたのだった。
まずは旗とり一人目。
「油断してちゃダメってことだぜ? いい教訓になっただろ? ま、ここは追われるのも面倒だが……。おい、アカシ。犠牲となれ」
と、武闘家が鎧の人に指示を出す。
「オーケー。旗取られちゃこちらもまずいからな。ここは俺に任せて先に行け! かーっ! これを一度言ってみたかったんだ!」
「その状況に運よくなれたな」
笑いながらそう返す武闘家の人は私を抱え、そそくさと逃げていくのだった。
鎧を着たアカシという男の人は武器を構え、必死に負ってを防いでくれているようだった。私は下ろしてもらい、自分で走る。
「お前、油断させるなんてすげえな! どこでそんな変身スキルを手に入れた!」
「影魔法ってのを習得していてな。ツクヨミっていう神様に影魔法の派生として教えてもらった」
「なるほど! この前はスサノオの加護を受けたやつがいたが、ツクヨミも取られていたか! おもしれえな! これからも仲良くしようぜ! 俺は武闘家のクリンクリンズっつーんだよ! クリンズって呼んでくれ」
「シグレ。よろしく」
クリンクリンズは笑って握手を求めてきた。私も握手をし返す。
「ま、まずは逃げることだな。逃げた先でほかの陣営と出くわしたらさすがに嫌だし、追っ手もアカシの足止めで追ってくるのは困難だろうし」
「そうだね。森は見通しが悪いけど……痕跡がしばらく残っちゃうからそれをたどられたら厄介だ。どっかでフェイクを入れなくちゃ」
「いや、フェイクはいいだろ。このまま森を抜けるぜ。ほかの陣営も見通しの悪い平原にはそこまで行きたくないだろうからな」
「ま、すぐにばれるからね」
ということで、誰も行きたがらないであろう平原に私たちは向かうことになったのだった。
誰もが見通しの悪い森の中に潜んでいたいと思う心理を逆手にとってあえて平原、というわけなのだが、この選択が吉と出るか凶とでるかは私も知らない。
私は森を抜け、平原フィールドのほうに出る。見通しがよく、プレイヤーがいるかどうかもすぐにわかりそうだった。
「あの岩の後ろとかに隠れていたりすることもあるよなー。よっと」
クリンズは岩の後ろをのぞき込む。
誰もいないようで、丸という合図を出した。私は岩陰に隠れる。
「俺はすぐにわかるよう岩の後ろを警戒しておくぜ?」
「距離を急に詰められたら怖いからな……」
クリンズは岩から出て、岩の上に座ったのだった。




