オー・ソレ・ミオ
私はもやもやとした気分を残しながらフルハチの店に向かったのだった。
フルハチの店にはログインしたばかりのベルルとフルハチがチャットで会話しているようだ。フルハチは私に気づき、いらっしゃいと告げる。
「ああ」
『どしたの? なんか元気なさそーだよ?』
『なんでもないよ。それより装備似合ってる』
『でしょー? 可愛いでしょ?』
私は現実じゃこういう格好だって簡単にはできないんだよな。
コーディネートも、食事も。すべてできない。生きてるなんて言えるわけがない。
『ま、いこうか』
『オッケー!』
「またくるよ、フルハチ」
「バイバイ、フルハッチ」
「またな」
私はフルハチの店を後にして、砂漠に行くと決めた。
こいつに関しては実力も十分にあるし、レベル高いところでレベリングしてもいいだろう。転移屋のところに向かい、私は砂漠に戻るとミノルにメッセージを送って、ベルルと一緒にジュルデン砂漠国に転移したのだった。
そして建物から出ると、ミノルたち四人が出迎えてくれた。
「ベルナデットー! いらっしゃーい!」
『こっちでは初めまして!』
『プレイヤーネームはなんと?』
『ベルル!』
「プレイヤーネームはベルルだそうであります」
ベルルはミノルたちと抱き合う。
私はその輪の中に入れる気がしなかった。やっぱりあんなことを言われると、ちょっとだけ私と生きてる人間との間に疎外感を少し感じてしまう。
こいつらは生きている。ならば私はと考えてしまいそうだ。
「シグレさん? どうかしたんですか?」
「……いや、なんでもない」
「シグレ、なんかあったの?」
「いや……」
私は否定しようとすると、ミノルが私の顔を手で挟んで、強制的にミノルの顔の前にぐいっとやられた。
「シグレはそうやって一人で悩んで抱え込むのだめ! またメモリーロックみたいなことになるよ!」
「といわれてもな……。私の今の悩みはお前らにわかんねーって」
「それでもだよ! そうやって抱え込んで、またバカみたいに落ち込むのやめて! うちはそんなシグレと一緒にいたくないから!」
「そうだ。ミノルくんの言う通りさ。何があったか話したくないかもしれないが話してみたまえ」
「……わかったよ」
私はフレンドの店でのことを告げる。
「私は要するにデータみたいな存在だからな……。生きてるのか、死んでるのかがわからない。正直……あの男が言うことも一理あるとは思った」
「まぁ、実質死者ではあるからな。シグレくんは」
「たしかに。生命倫理的には難しい課題ですよね」
『何の話してるの?』
『電脳アバターの生命倫理についてであります』
周りから見たらくだらないことかもしれない。けど、私にとってはとても大事なのだ。
生きているという感覚。この感覚がまがい物であるのならば。蘇ったのは私のデータというだけで、本物はすでに死んで私はニセモノ、ということになるのだろうか、とか。
私自身、そういうことを普通に悩んでしまう。
「生きてるとは言えないんじゃないかな?」
「……だろうな」
「まーまー、そんなことはどーでもいーじゃん」
「よくないのでは?」
「どーでもいーんだよ! 生きてるとか死んでるとか、そんなの関係ないっしょ? うちはシグレと話せてハッピーだし、幸せならそれでいーじゃん?」
幸せ、か。
「シグレだって幸せを感じてるときあるじゃん。それって生きてるってことでいーでしょ」
「そっか」
「そ。悩みは終わり?」
「ああ。ミノルがそういうのなら、ま、そういうことにしておいてやる」
本当に、眩しい太陽が私を照らす。
私が月だとするのなら、ミノルは私を照らす太陽。眩しくて、隠れたくなってしまうな。
『……シグレってミノルのことが好きなの?』
『バカ言うな。私はノーマルだ』




