海の洞窟 ①
私は憤りを感じながらぽんぽこにさっきの愚痴を吐く。
「ほんっとにああいうやつ嫌いだわ」
「そうですね。流石に限度というものがありますし……」
「ほんっとに!」
この憤りはどこにぶつけよう。
「海でも見て落ち着きませんか?」
「……そうだね」
私たちは港の方に移動することにした。
港では漁船が停まっており、漁船の上では引き上げた魚を陸におろしていた。
この世界にフォークリフトとかはないが、魔法がある。魔法で持ち上げて運んでいた。
「うほお、すごいな」
「魔法ってこんなことも……」
「そうですな」
と、また誰か隣に立っていた。
口元に巻かれた髭を生やした男の人。スラっとした体つきだが、腰にはサーベルを携えている。
「えっと、誰ですか?」
「私か? 私はこの領を治る領主のバードン・ハルクマンという。よろしく頼むぞ」
まさかの偉い人。
「海はいいですな。潮風の匂いが私はとても好きなのです天使殿」
「そうですね」
「荒んだ心も……書類仕事で疲れた体も癒してくれる……。私は海が好きなのです」
「私も好きですよ」
「ふむ、そうかそうか。それは誠に素晴らしい。そんなあなたに頼み事があるのです」
頼み事?
「レッドムーン……というのはあなたたちのことでしょう? 噂には聞いております。依頼があるのです」
「依頼?」
「この海を行った先にある洞窟の様子を見てきていただきたい。最近海の魔物が活発化しているという報告がありましてな。私は海の洞窟が原因だと踏んでおりまして、調べに行きたいのです。ですが、私どもはそれほど強くないのです。なので強そうな貴方達に言ってもらいたい」
「……報酬はあるんですよね?」
「もちろんですとも」
なら……。
「いくか」
「受けてもらえるのですか?」
「はい」
「ありがとうございます。海の洞窟まで行く船を今から用意いたしますので……」
「いや、いらないよ」
私は翼をはためかせる。
「空飛んでいくから」
私はぽんぽこの手を取る。
「海の洞窟はこの先?」
「え、ええ! お願いいたします」
私たちは空を飛ぶ。
本来はミノル達も連れていくべきなんだけど……。名目はあくまで調査。調査なのだから解決する必要はほとんどない。
「ぽんぽこって戦えたっけ?」
「いえ……。私はあくまでサポートメインで頑張ろうと……」
「なら、私一人か。頑張ろ」
私たちは空を飛ぶ。
「キュワーーー!」
「うお、イルカ?」
「あれは一応魔物ですね。人に友好的な魔物なので襲われる心配はないですよ」
「たしかオオイルカ……。可愛らしい見た目してるなぁ」
「キュワーーー!」
「しかも群れですね」
群れのオオイルカ。
空を飛び、私たちに水のリングを飛ばしてくる。私たちの周りに水のリングが絡みつく。
「なにこれ」
「水のバリアですね。触るとはじけます」
「キュワ!」
オオイルカは私たちの上を飛び越す。
すごい、ショーを観ているみたいだな。
「キュワ!」
「癒されるぅ……」
「キュワー」
私は笑顔でオオイルカを見ると、オオイルカは満足そうに去っていった。
こういう人間が増えればいいのにな。しつこくなくていい。
「……よし、イラつきが治ったぞ。海の洞窟を心ゆくまで探索しよう!」
「そうですね! っと、見えてきましたよ」
海の上にぽつんとある洞窟。
私たちは中に入ってみる。中は明るかった。
「このコケが発光してるみたいですね。灯りのように照らしてくれてます」
「好都合。さて、このまま奥へ向かうか……。なんかいそうだけど」
「……死にたくないです」
「死ぬくらいやばかったら全力で引き返そうね」
私は洞窟内を飛んで移動する。
船でしか入れなさそうな洞窟。私たちは空を飛べるからいいのだけど、ミノルたちは船に乗らなきゃ無理だな……。




