無礼者
ミコトの病室に戻ると、なんだか少し騒がしくなっていた。
マネさんはうげえという顔をしている。目の前にはたくさんの人。カメラを持った人やファンなどが無作法に押しかけている様子だった。
「そこ! 勝手な取材とかはよしてください! 個室じゃないんです! 他に入院している子もいるのでやめてください!」
マネさんは中へ突っ切っていく。
マスコミはそれでも引かない。ファンも引かない。病院がここだとばれており、無作法に押しかけてくる民度の低さは何とかならんのかね。
マネさんは必死に牽制しようとしている。だがしかし、相手も一歩引かなかった。
「……夜桜家に言うぞ」
と、マネさんが一言いうと。
「出来っこねえだろ! そんなつてなんかねえくせに!」
というマスコミの誰かが発したであろう声が。
なるほど、このマネさんも意外としたたかだ。伝手なんかない。そう思っているのが運の尽きなんだよな。
マネさんは私を見せつける。
「退けよ。私が夜桜家の一人だよ。今ここで私の父さんに告げ口してもいいんだからな」
「…………そんなのはったりだ!」
「嘘つくんじゃねえよ、早く椎名 尊を出せ!」
と、嘘だと断定されたわけだ。
私は父さんの携帯に電話をかける。テレビ電話なので相手の映像が見られるだろう。数回のコール音が鳴り響き、そして、カメラが繋がる。
どういう状況かわかっていなさそうな父さんだが、目の前の人たちを見てわかったようだ。
「なるほど。これは早急に対処する必要があるな」
「誰だて」
「あっ……も、もも、申し訳ありません!」
記者の一人が気付いたらしい。
大きく頭を下げる。
「私は夜桜 時雨の父、夜桜 宗十郎だが」
「あ、ああ、あの夜桜……?」
マスコミたちは一歩引く。だがしかし、ファンは夜桜家を知らないのかまだ押しかけようとしている。それをマスコミたちが必死で防ぐ。
「こういう無作法な無礼者が来るのだな。わかった。病院は移転させよう。今度はきっちり身辺を警護してくれるがっちりとした病院に。それと……君たち、どこのテレビ局か新聞社だ? まぁ、わからないが心当たりがある会社に全部きっちり苦情でも入れておくとしようか」
「そ、それだけは……」
「それだけは? こんな無作法な真似しておいて謝りもせずそんな無礼な真似をまだするのかね?」
「も、申し訳ございません!」
「それは私に対しての謝罪かね? 謝る相手を間違えるようじゃ救えないな」
マスコミたちはマネさんのほうを向いて地に頭を付けた。
さすがにマスコミたちは権力がちょっと怖いらしい。自分たちの生活を揺るがすような相手だから無理もないだろうけどな。
「で、出直してきますので! 申し訳ありませんでした!」
と、マスコミの人たちは逃げていった。
だがしかし、まだファンのやつらはいる。夜桜家を知らないファンの人が一番厄介で、突っかかってくる。
こういう時は父さんじゃないほうがいい。
「ありがとね父さん。じゃ」
「ああ」
父さんとの電話が切れた。そして、ガラッと病室の扉が開かれると、少し怒りを抑えているミコトがいた。
「君たち、静かにしてくれないかい? ここにはボクだけじゃなくボクの友人も入院しているんだ。そんなに騒がしくしちゃ友人たちにも病院にも迷惑だろう。きっちり弁えたまえ」
「あ、ああ、あの、ミコトさん! サインを……」
「図太くて図々しいな君。迷惑を考えず押しかけるような無礼者にサインなど書くわけがないだろう。ボクはファンサは大事だと思っているが、他人に迷惑をかけるような人はファンだとは思わないね」
ミコトはそういって突き放す。
サインを拒否された若い女性は、その場で崩れ落ちた。その様子を見て、出直そうぜとなっているファンの人たち。
「君たちも同類だよ。ボクは公共の場で人の迷惑も考えずに行動する短絡的な奴らは大嫌いでね。そこのところを理解してもらいたいね」
「は、はい……ごめんなさい……」
「もういい。いきたまえ」
と、ミコトは冷たい口調で言い放つ。ファンの人たちも帰っていった。
「ふぅ」
ミコトは全員帰ったのを見計らい、溜息をついた。
「シグレくん。助かったよ」
と、まだ怒りが収まってない口調で感謝の言葉を述べた。




