ミコトのために ②
私はミコトのマネージャーさんと出会う。
「椎名 尊のマネージャーの田中と申します」
と、20代くらいの若い眼鏡をかけた可愛い女の人がマネージャーだという。
マネージャーさんは私のスマホを持ち、電車に乗った。
「えっと、今から私はどこに行かされるんですか……?」
「聞いてない?」
「え、ええ。ミコトさんからあなたを連れてこの住所にと……」
そういうと、電車は目的地に着き、マネージャーさんは地図を頼りに私の家に歩いて向かったのだった。
そして、見えてくるのは高級住宅街。どこかおかしいと思ったのか、住所をまた見返している。
「えっと、ここですよね……? ここを突っ切れと……? 住所はこのいかにも高そうな家が並ぶ住宅街……。ミコトさんこんなところに知り合いなんていましたっけ……」
そういいながらも、高級住宅街を歩いてく。
そして、ここだといって、マネージャーさんの田中さんが目を上げた時、固まっていた。表札を見て、夜桜家と呟く。
「ま、まっさかぁ。ミコトさん夜桜家の方とつながりが? そんなこと……」
「ありますよ。私、夜桜 時雨です」
「ふぇええええ!?」
そういうと、驚いたかのような声を上げた。
その不審な声に駆け付けたのは、家で働く使用人の人たち。屋敷がでかいので使用人がいないと管理ができないということ。
不審な女性をにらむ使用人の一人。私は声を上げた。
「大丈夫。私が許可してる」
「これはこれは時雨お嬢様。この方はお知り合いで?」
「知り合いのマネージャーさんかな。父さんいる?」
「お父様は今書斎に」
「よし、じゃ、いくか」
私はマネさんに書斎のほうに向かってくれと告げる。マネさんは夜桜家というでかい家に緊張しているのか、左足と左手を同時に出すなど、ものすごく緊張していた。
本来なら絶対かかわることがなかったであろう家だからだ。
書斎につくと、私は父さんの机の上に置かれた。
「よく来たね。今日は何の用かな」
「頼みがある」
「頼み?」
私はミコトのことを説明した。
「わかった。人が来ないように牽制をしておけばいいんだろう? なら、その病院ではなく妻の弟……。志士くんの病院ではどうだろうか。そこなら私の手の届く範囲だ」
「そこに病院を移すようにと?」
「ああ。さすがに私の息がかかっている病院にむやみやたらに突撃するバカはそうそうおるまい。要件はそれだけかな?」
「ああ」
私はそういうと、父さんは私のスマホを持ち上げる。そして、少し悲しげな眼をしていた。
「時雨。お前は自分のために私を使ってもいいのだよ。私は時雨になにもしてあげられなかったのだから」
「……友人のためになるんだったら私のためだっての」
別に私は家の力なんてどうでもいい。
自分のために使うなんてのはしたくない。私はそういうのは嫌だから。家の力を使ったら余計になめられるだけじゃないか。
私はそういうのはごめんだよ。金持ちのボンボンとして見られたくない。
「それで、寒九と翠雨は?」
「寒九は部屋にいる。翠雨は夏休みだということで友達と北海道に旅行に行った」
「なら、安心だな」
翠雨がいると安心できないからな。あのシスコン妹はちょっと怖い。
「もう要件はすんだし帰る」
「少しゆっくりしていかないかい?」
「私はいいけど、あそこに座ってるマネさんが緊張でガチガチに震えているだろ。早く帰してやらないと」
「はは、そうか。わかった。また、いつでも来なさい」
「じゃあ、このアプリ入れてよ」
と、私はミノルが作ったアプリを提示する。
「なんだいそれは」
「私の友人が作ったアプリなんだけどね、電波を介して他人のスマホに移動できるっていうものさ。遠くにいても一瞬で来ることができる」
「なるほど。面白いものを作るんだね……。恵まれた友人に出会えたのだな」
「まぁね」
私はそういうと、すぐにアプリを入れ始めた。
ミノルはすでにリリースしたとか前に言っていた気がするから言ってみたが本当にリリースしていたようだった。
「それで、夜桜 時雨って名前を許可するとすれば私はその中にいける」
「……そうか。なら、またいつでも来なさい。私はお前の願いをかなえられる範囲でなら叶えてやれる」
「その時が来たら頼りにするよ」
私はマネさんを連れて、実家を後にした。




