横柄な女
私たちはアレスタと共にマホカの拠点にまず戻ることにした。
というのも、つい先ほど騒ぎを起こしていたこのアレスタという女の子を叱る為だとも言える。
「私は何も悪いことはしてないと思うがねぇ。ただ人はなぜ怒るのかを調べていただけに過ぎないというのに」
「……こういうやつなんだよコイツ」
と、呆れたような声を出すウルフ。
「なんでこんな偉そうなの?」
「実家が裕福らしくてな」
なるほど。要するにボンボンか。こういうのは厄介だよなあ。金持ちってことは社会的にも高位にいる。
そう言うやつは基本同じくらいのやつらとつるむのだが、こいつは違うようだ。
私は偉そうに踏ん反り返って座るアレスタの前に座る。
「あのなぁ、あんまり騒ぎ起こすなよ」
「騒ぎ? あの程度は騒ぎとは呼べないだろう」
反省してないなコイツ。
しょうがない。ボンボンにぶつけるのならこれしかない。
「お前、本名は?」
「はんっ、人に名乗ってほしい時は自分が名乗るってのが礼儀じゃないかい?」
「わかった。じゃ、名乗るよ。夜桜 時雨。ボンボンなら、これで私のことがわかるよね?」
「夜桜? 時雨? ……あっ」
思った通り。わかったようだ。
家の力はそこまで好きじゃないんだけどな。使えるものは使わせてもらおうか。
「どうした? いつものお前じゃないが」
「ば、バカ! 夜桜家といえばあの不死帝家の親戚! 逆らってはいけない家の代表格だぞ!」
「そんなすごい人なのか」
「す、すす、すまなかった。横柄な態度を取ってしまったことは謝罪する。許してくれ」
「人によって態度を変えるのはどうかと思うよ?」
私はそう言うと絶望した顔になる。
それはそうだろう。うち、夜桜家の力は想像しているより遥かに大きい。
数年で世界的な財産を築き上げた不死帝家に逆らうのは得策じゃない。敵に回そうとする奴は世界中から嘲笑われるくらいには有名になってしまった。弥勒さんの力は予想以上に大きくなっている。あれは天才と呼べる。
その不死帝家の分家で、不死帝家の血が通っている夜桜家もまた影響力がある。
うちの父さんも弥勒さんとは親しくしてるみたいだしな。
「ふぅん。あの不死帝家のねぇ」
「人によって態度変えるのは流石にねぇ」
「悪かったです。もうしません」
「ここまでコイツを狼狽させたのは初めてじゃねえか?」
「うるさい! とにかく、逆らったら私の家の立場も悪くなるんだ! 夜桜家のご令嬢にお粗末な対応をしたら私が叱られるどころか勘当もされかねん」
「はっはっはっ。そうだな」
ウルフも私の家のまずさを知ったらしい。
「あ、あたしも舐めた口聞いて悪かったよ……。こ、こんなのでも友達なんだ。その、許して……」
「別に許さないとは一言も言ってないしね。ま、私がこういうのもなんだけど、お天道様はお前らや私を見ているぞーってね。ただお灸を吸えるってだけにしておくよ」
私がそういうと、アレスタという女の子はほっと胸を撫で下ろした。
「ま、今度から心を入れ替えなよ。そういう人を見下したような発言はいずれ痛い目をみる」
「わかっておりますとも」
「ほんとかねぇ。で、それよりこれからなにする?」
「なにとは?」
「私はまだポイントを集め続けるけど」
「ああ、イベントのことですか」
「アレスタの敬語、初めてだな!」
「うるさいぞ。イベントですか。私は興味なかったので参加しないつもりだったのですが」
「あたしはシグレさんを手伝いますよ!」
「それじゃ、微力ながら私も手伝いましょうか。職業は回復術師なので戦闘には向いておりませんが、サポートくらいなら出来るでしょう」
ということなので、三人で再び狩りに出かけることになったが、まだ問題がある。
「んで、あんた名前なんてんだっけ」
「アレスタ……ですが」
「本名本名。私だけ名乗ってるよね?」
「あっ、ああ! 申し遅れました、私はアレスタこと荒磯 しづると申します」
ああ、荒磯家の。
「だったらタメか。中学までは違うクラスだったが同学年だったよな途中まで」
「そ、そうです」
「ってことはお前の友人であるマホカもタメか」
歳上だったらちょっと嫌だったがタメだったか。
「ま、そんな堅い話し方じゃなくていいよ。友達に対する話し方でいいさ。私はそんな家の力を無闇に使うような阿呆じゃないし。それに知ってるんだろ? 私の暴力事件」
「……まぁ」
「暴力事件? なんのことだよ」
「夜桜家における唯一の不祥事さ。ただ、細かい理由などは私は知らないが……。学園側の対応にも些か問題はあったであろう事件だよ」
唯一の不祥事扱いか。
学園の対応にも問題があった、そういう意見なんだなアレスタは。
「私が金持ち中学に入ってたことは知っているだろう? 中3の時に起きたんだよ。クラスメイト二人をボコボコに殴っていた。その時に私もその場にいたが……怖かったとしかいえない。失礼だが今のような丸くなった笑顔を浮かべていなく、今にも人を殺しそうなくらい鋭い目をしていた」
そりゃ、追い詰められていたからな。
私が丸くなったのは転校してからだ。
「なぜ夜桜家の令嬢であるシグレさんが暴行なんていう愚行を起こしたのか。それは親である夜桜家の事情だったとすぐに発表されたが……学園の口ぶりからするに、多分薄々は気づいていたはずさ。触らぬ神に祟りなしというように、その問題を解決しようとしなかった。周りに対しても止めようとしなかった。うやむやに済ませようとしたといえる」
なるほど。
私の家の力が大きすぎて触りたくなかった、と。だからこそ止めなかったのだ。
だがさすがに、暴行ともなると話は違ったようだ。
「だから私も学園が嫌になり高校は君たちのいるところにしたんだがね。うちの親も学園に対してはカンカンさ。あの事件で夜桜家と学園の評判が落ちたと言える」
「転校した後のことはどうでもよかったから知らなかったがそうなっていたのか」
「そうなっていました。夜桜家のあなたが起こした事件は学園にとっても大きな痛手となったようです」
私の家だけじゃなく学園にまで、か。
「へぇ……」
「まぁ、それでもあの学園のブランドは消えないでしょう。夜桜家の後継ぎが通っているという話も聞きますし、学園側も夜桜家が通っているということが大きな宣伝となっていますから」
まあ、学園側も逞しくなくてはな。
「ま、過ぎたことはどうでもいいさ。暴力事件を起こすような私だからそんな堅苦しくなくていいよ」
「はい」
「っし、じゃ、いこーぜ! ファンファン狩り……って行きてえけどマホカのやつ、一人で狩れてるのか心配だな」
「助けに行けばいいだろう? 私は戦えないぞ」
「じゃ、あたしはマホカのほうに向かう。アレスタとシグレ! 頑張れよ!」
と走っていった。
「では私たちも行きましょう。申し訳ないのですが戦いは全て任せます」
「戦えないんならしょうがない」
私が頑張るしかない。




