前向きな魔法少女
マホカと共に森の中を歩く。
マホカの魔法少女コスチュームは実際にこのゲームにそういうレシピがあったらしく、魔法少女で丁度いいっていう風に感じて自分のグループの裁縫師に作ってもらったらしい。
「あ、あそこにギロチンクワガタいますよ! 魔法少女の出番ですね!」
と言って、ステッキを構える。
「あまねく悪を退治する正義の魔法少女! マホカちゃん、参上! わるーい魔物やわるーい子にはおしおきだ!」
と、恥ずかしげもなくポーズを決めていた。
キャラを貫くことは良いことだとは思うよ。私はそういう感想しか思い浮かばなかった。
ステッキを振るうと、ギロチンクワガタの真上に剣が出現する。
「魔法少女必殺! ふりけん!」
ステッキを振ると、その剣がギロチンクワガタに突き刺さる。だが、一発でやれてなく、ギロチンクワガタはこちらに近づき、ハサミを広げてくる。
マホカはかわさず、ハサミを喰らった。
「あ、死ぬ……」
「バカ!」
私は蘇生ポーションを取り出し急いで使用した。
ギロチンクワガタは今度は私に狙いを定めたようだ。私は矢を放つ。
ギロチンクワガタは矢の衝撃で吹っ飛んでいく。
そして、消えていった。銀メダルを二個落として。
「ふいー、やりましたね!」
「一度死んだよなお前……」
やりましたね、じゃないだろ。
結局私が倒したもんじゃないか。こいつ意外とポンコツか? ミノルパターンのやつか?
私はなんだか関わるのが少し面倒になってきていた。
「ふっふっふっ、死んだふりですよ! そしたら油断しますからね!」
「嘘だろお前……」
アレを死んだふりと言い切るのは無理があるだろ。
「なら死んだふりっていうなら蘇生ポーション返せよ」
「い、いやぁ、あれは……」
「死んだんだろお前」
「……ふぁい」
こいつ……。
マホカという女は、気を取り直したのか獲物を探しに行きましょうと告げる。
「まだやるのか? もう夜だし寝た方が」
「いいんです! 私、電脳アバターですから!」
「……は?」
「いやぁ、恥ずかしい話なんですがねっ」
電脳、アバター?
「私、家族関係が上手く行ってなくて。友達の家を転々としてたんですよ。そしたら家に連れ戻されちゃって! 仕方なくゲームしてたらテロに巻き込まれちゃって死んじゃったんですね! 親は捕まったみたいで、困ってたら友達が電脳アバターとして復活させてくれたんですよ!」
「…………」
「シグレさんは寝ないのですかっ?」
「私も……一応は電脳アバターだから……」
「なんとっ! 運命ですかっ! 私と同じ境遇とは!」
本当にな。
家族関係で上手くいってないことも似ている。もしかしたら私なのだろうか? こいつは。
いや、私はこんな頭お花畑ではないはずだ。
「あなたが電脳アバターになった理由はっ!?」
「同じだよ。家族関係が原因だよ」
「ほうほう! 同じですね!」
「こうも同じだと不気味だよ」
「不気味でもいいじゃないですか! 似たもの同士は惹かれ合うんですよ!」
惹かれ合う、ね。
「もはや運命なんですね! 運命の友と出会ったことを喜び盃を……というのは未成年なのでダメなのでジュースで乾杯しに!」
「……電脳アバターであることは気にしてないのか?」
「この世に再び生を得ることが出来たのですっ! 形はどうであれ培ってきた友情は消えないのですよ!」
マホカの言うことは至極もっともだと感じてしまった。
私にもミノルとの友情は少なからずあると思ってる。ミノルが演技で私をとことん絶望させようとか思ってるのなら違うが単純なミノルはそういうことしない。
「なんか……お前前向きだな」
「前向きしか取り柄がありませんから!」
「ミノルと同じだな」
前向きしか取り柄がないというが、その前向きさに救われる人もいるだろう。
私もミノルの前向きさに救われているからな。
「私は前向きじゃないからな……」
こいつが陽なら私は陰。性格としては真反対だな。
「まあ、何も考えてないだけですけどね! 友人からはバカって言われてます! ささ、ではいきましょーか!」
「ああ……」
その前向きさに、私は少し息が苦しくなってしまうときがある。




