◇ ミコトたちの恐怖体験
夜の病院内。
ベッドに寝転がっている四人。ハルサメだけしっかりと眠っており、そのほかの三人はまだ起きていた。
「お泊まり会、みたいだねっ!」
「そうですね……。ここが病院ということを除けば理想ですね」
「このボクがいることで病院内も華やかだね……」
静まり返った病院内。ミコトは立ち上がり、扉を開ける。
「どこいくの?」
「ふふ、トイレさ。ついてくるかい? ミノルくん」
「いく!」
「なら私も……」
三人の患者が立ち上がり、静かな病院内の廊下に立つ。ミコトが先導し、ワクワクとしながら歩くミノル。
すると、真田が疑問点を口に出した。
「そういやミノルさん、夜の病院は大丈夫なんですね」
「え? どーいうこと?」
「いえ……よく怖い話だと夜の病院内の話があってお化けが……」
「それって作り話でしょ?」
「そうなんですが……」
「平気平気」
と、ミノルは前を向く。
「幽霊嫌いじゃなかったんですね」
「いや、苦手みたいだ」
「え?」
「その話を聞いた時、ボクの服を掴んでいる。そして小刻みに震えている」
ミノルは強がって平気と答えていたが、ガクブルと震えていた。
ミノルはミコトにある提案をした。
「ね、ねぇ、ミコトってちょーすごいじょゆーなんでしょ!? シグレの真似できない!?」
「シグレくんの?」
「そー! シグレといるなら怖くないと思うんだよね!」
謎理論。
シグレといたらシグレに揶揄われると思ったのと、ミコトはあのねぇと続ける。
「演技とモノマネは違うのさ。演技というのは台本あってのもの。モノマネはボクの専門外さ……」
「アドリブで対応というのはできないんですか? シグレさんの性格の役とか……」
「出来るとも! ただ、声などが違うとコレジャナイってなると思うがね」
ミコトはそう語る。
シグレの役を演じるのはやはり難しいものがあるのだろう。本物が近くにいるミノル相手に対してはなおさら。
ミノルはうぅ……と頭を抱える。
「だが心配いらないさ。幽霊というのはそう簡単に見るわけがない。さ、ついた。さっさと用を足そうか」
と、ミコトが足を踏み入れた時だった。
トイレの近くのエレベーターホールかれ音が聞こえた。エレベーターが到着したのか?と思っていたが、ミコトはある疑問を感じる。
「誰も降りて来ていないのか?」
と。
病院のトイレはエレベーターホールの近くにあり、この階層のどこかにいくのなら誰かの姿を見るはず。
ミコトはエレベーターホールを覗き込む。
「エレベーターが開きっぱなし……?」
「なんで?」
「わかりません……。い、行ってみます?」
「君案外好奇心あるね。まぁ、ボクも気になるし乗り込んでみようか」
そう言って、ミコトたちは乗り込もうとすると、寸前のところでミノルが服を引っ張る。
「や、やめといたほーが……」
「何を言う。ここまで来たのだから超常現象にでも遭遇しようじゃないか。いやならばボクと真田くんで行くが……」
「一人にされるのもやー!!」
といって、エレベーターに三人乗り込んだ時だった。
扉が閉まり、エレベーターが動き出す。
「あ、あれ? 私たちボタン押してませんよね?」
「ひいいいいいいい」
「ふむ、このエレベーターはどこに向かっているんだ?」
ボタンを押していないのに上昇し始めた。
そして、ぴんぽーんと音が鳴り、ついたのは屋上。扉が開かれる。
夏の夜風がミコトたちに吹き付ける。
「えっと……。ここが幽霊が連れて来たかった場所なのかい? 屋上?」
その時だった。
真田さんが何かに引っ張られるように歩き出していく。その目は虚だった。
ひたすら前を見続け、屋上のフェンスに足をかける。
その時点でやばいと悟ったのか、ミコトは大きく手を伸ばし、真田さんの腕を掴む。
だがしかし、フェンスの外に出て今にも飛び降りそうにしている真田さん。
すると、真田さんは掴んでいたミコトの腕を掴み、そのまま投げる。
ミコトの体が上空に投げ出された。
「えっ?」
ミコトはそのまま重力に従い、落ちて行こうとした時だった。
ミノルが体を大きく外に出し手を伸ばす。ミノルの片方の手はフェンスをがっちり掴んでおり、ミコトを片手で支えている。
「んのおおおおおお!!!」
「ミノルくん!」
「ちょ、マジ無理! 腕千切れるーーーー!」
「…………」
その時だった。
警備員と思われる男の人が数名やって来た。
「何をしているんだ!」
「それいうまえに助けてよーーー! うちもー無理! 死ぬーー!」
「君!手を伸ばしたまえ!」
「そこの君もフェンスの中に来るのだ!」
そして、三人とも救出されたのだった。
「何をしているんだ!」
「…………」
「申し訳ない……。信じてもらえないと思うが……幽霊がだな……」
「幽霊……?」
「…………ちっ」
真田さんが舌打ちしたかと思うと。
「あ、あれ?」
元に戻った。
「え、えーっと、何事ですか?」
「忘れてるならもういい……。肝が冷えすぎてヤバかったよ……。もう半分死んだと思った……」
「だから言ったじゃん! うちいくのやめよってえ!! ゆーれいはこわいんだから!!」
「肝に銘じとく……」
二人は大いに反省したようだった。




