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もう一人の生存者

 この展開は正直私は嫌だ。

 物語は基本ハッピーエンドであるべきだと考えている脳内お花畑なので受け入れずらい。


「シグレ殿。あらためて感謝する。あなたのおかげで被害が少なく済んだ」

「……っす」

「当事者でない君がそこまで取り乱す必要もないだろう」


 取り乱すよ、これは。

 私自身この結末はなんだか嫌だ。あのゾンビたちを討伐しなくちゃいけなかったのは辛かったが、こんな展開は……。

 まぁ、仕方ないと割り切るしかないか。ミノルならもっと抗議するだろうけどな……。私は大人だからバッドエンドでも受け入れるしかないだろう。


「これは依頼の料金だ。ありがとう」


 と、袋を手渡してくる。

 私は受け取らないという選択肢もあったが、伯爵は受け取らせようとしてくるだろう。私は有無を言わず金を受け取った。


「馬車を用意しよう……と、そういえば馬小屋のほうにも使用人がいたはず。悪いがシグレ殿。見てもらえるだろうか」

「はい」


 伯爵は馬小屋の場所を教えてくれた。

 馬小屋は敷地の角のほうにあり、門とは正反対のほうだった。


 私を向かわせた理由はただ一つ。馬小屋のほうにゾンビがいたらという懸念だろう。


 私は馬小屋に入ると、馬が三匹くらい草を食べていた。ゾンビにはなっていないようで、襲われたという形跡もない。

 私は馬を連れてこいと言われたので、よしよしとなでながら綱を外すと。


「なにしてるんですか! この不審者!」

「あ、すいません。この屋敷の主人から馬を連れてこいと」

「あ、旦那様が? なら私が持ってきますよ。ちょうど暇してましたし」

「あ、頼」


 と、言いかけた時だった。

 私は思わずその女性を見る。女性は健康的な若々しい肌をしており、少し眠そうな顔をしていた。慣れた手つきで馬をつないでいる綱を外し、鞍を付ける。


「それじゃ、一緒に行きましょか!」

「あ、ぶ、無事なのか?」

「え? 無事ってなんです?」

「いや、外の屋敷の惨劇しらないの?」

「あー、自分知らないんですよねぇ。馬小屋当番になってから屋敷内に入ってませんし。この家、ろくに遠出しないので馬小屋当番になると基本こっちで生活してるんで屋敷のほうとか知人からの情報しかもらわないんですけど。なんかあったんですか?」


 ……まだ無事な奴が。

 それにしてもここでのうのうと暮らしていたのか。さっきの騒ぎもしらずに。


「……なんかあったって、知らない私が採りに来てる時点でちょっと察するべきじゃ」

「没落? いや、旦那様金はあるしな……。となると考えられるのは……ハザードとか! そういう小説ありますよねぇ。ゾンビであふれている世界とか!」

「…………」

「あれ、当たりですか? いやいや、ゾンビて。呪術で対象をゾンビにすることができるって聞きましたけどそれって特別な粉がないと無理って聞きますし! そんなことあるわけ……」

「…………」

「……まじっすか」


 こいつ情報を把握してなさすぎる。

 情報を把握してたらこんなところにいつまでもいないか。


「……下手人は?」

「この家の夫人」

「あの雌猫か……。あれは前々から怪しいと思ってたんだよ……。それで旦那様は無事なのか?」

「無事だけど」

「ならよかった……。とりあえず、馬を連れていくんだね。一頭じゃ足りないか。無事な奴は何人だ?」

「……伯爵含めたら三人」

「メイドがほとんど全滅……? そこまで被害が……」


 そういうと、ほかの馬にも鞍を付け、繋いでいた綱を外す。


「あんたはもしかして旦那様が雇った護衛の人か? なら私も護衛してくれ。門まで馬を連れていくからゾンビから襲われないように」

「ゾンビはあらかた倒したよ」

「……そうか。なら、ちょっとだけお願いがある」


 と、そのメイドは屋敷のほうを向いて、祈りをささげていた。


「せめて安らかに眠ってくれ……。我が友人たち」

「……祈りがきれいだな」

「天使様にはそう思えるか?」

「……まぁ」

「そりゃ、私はこれでも敬虔なるアルテノス教の教徒だからな。毎日祈りだけはささげているのさ」


 なるほどね。

 それにしても天使だって言ってるのに態度は変えないのな。


「行くよ、天使様」

「お祈りはいいのか?」

「もう済んだ。死んでいった者をいつまでも考えてるわけにはいかない」


 そういって、彼女は馬を四頭連れて外に出たのだった。










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