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煌びやか

 メイドのゾンビが屋敷内にいた。

 ゴキブリは1を見たら100はいると思えというが、それはゾンビにも当てはまるだろうか。

 私はエドワードとメイドと共に屋敷内を見て回る。


「さっきのゾンビ……だけとは考えられませんよねー……」

「だけだといいんだがな……」


 私たちは執務室と書かれた部屋を見る。

 

「ここが僕の父の執務室です。父は夜通し何かしてることが多くて……」

「へぇ……」


 私たちが話していると、中から悲鳴が聞こえてくる。

 誰かー!という声。私はその声を聞いて蹴破ると、ゾンビが今にも噛みつこうとしていた。

 アーノルドさんは杖をもって必死に抵抗しているが、押され気味のようだった。


 私は光陰の矢を構え狙撃。


「怪我はありませんか」

「大丈夫だ……。屋敷で一体何が……」

「わかりません……。私たちが厨房にいるとゾンビがやってきました」

「そうか……。あっ、エドワードは無事か!? 頼む、エドワードの部屋に……」

「あの、父上……」


 と、私の影からおずおずと出てくるエドワード。


「エドワード! 無事だったか!」

「うん……」

「よかった。本当によかった……。でもなんで君と?」

「幽霊騒動の犯人が、エドワードくんだからです」

「エドワードが……? まあ、詳しい話は後だ。そこのメイドはゾンビではないだろう? エドワードを連れて外に避難して門番に門を閉めるように告げてくれ。決して死ぬのではないぞ」

「任されました!」

「私たちは家内の様子を見に行こう。家内は部屋に……。もしもの時のために、シグレ殿。ついてきていただきたい」

「はい」


 と、私たちはアーノルドさんの家内……伯爵夫人の様子を見にいくことになった。

 屋敷内はすっかりゾンビが徘徊している。執事服を着たゾンビや、メイド服を着た人、料理人の格好をした人。


「…………まさかな」


 私たちは歩いていると、アーノルドさんがそう言葉をこぼした。

 まさか。その先に続く言葉はなんとなく想像できてしまった。


「黒幕は誰だ? こんなことをしでかした黒幕は。わたしたちに手を出したとならばタダでは済まさん……」

「……ここですか? 奥様の寝室」

「ああ。私が許可する。ぶち壊してくれ」


 私はそう言われたので煌雨の矢を構え、扉を破壊する。すると、あら?と少しきつそうな女の人がベッドの上に座っていた。


「あら、どうしたの? あなた」

「……なぜここにはゾンビがいない?」

「そりゃゾンビを放ったのはわたくしですもの」


 と、抜け抜けと言い放った。

 まさか、の後に続くのはこういうことだったのだ。


「理由は?」

「理由なんて決まっているじゃない。あなたへの復讐のためよ」

「復讐? 私は君に何も……」

「したわ。私が好きだったもの全部引き離して……こんなみみっちい伯爵家に嫁がされて……。綺麗でもない伯爵と営んで……そんなの嫌に決まってるじゃない。もっと煌びやかに……輝きたかった。ただの伯爵家に嫁がされた私の気分は男のあなたにはわからないでしょう?」

「ただの伯爵家って……」

「私はもっと輝ける存在なの。だから今からでも遅くない。私は輝いてみせる」


 そういうと、ナイフを手にしていた。

 そして、伯爵目掛けナイフを突き刺そうとしてきた。私が横槍をいれ、そのまま投げる。


「邪魔しないでちょうだい!」

「うるせえな」


 私は夫人の手を踏みにじる。

 甲高く喚く夫人。アーノルド伯爵はため息をつく。そして、取り押さえた夫人と目線を合わせる。

 まるで子供に言い聞かせるように。


「お前が私と結婚したのはお前の父さんが私に借金していたからだ。当時、結婚相手がいなかった私は、若かったお前と資金の援助を約束し、結婚させてもらった。無理に結婚したのはすまない。が、貴族である以上、恋愛関係で結婚できるなんて思うな」


 そうだ。

 貴族である以上血縁を重視するのは当然のことなのだ。むしろ恋愛関係で結婚できる貴族なんてのは、相手など選ぶ必要もない一部の貴族だけだろう。


「なによ! 偉そうに! 私が結婚してやらなきゃ行き遅れてたくせに!」

「偉そうで結構だ。ただ、恨むのはお前の父親だ。お前の父である侯爵家が私の家に借金などしなければこうはならなかった。災害などで金銭が足りなくなったというのならともかく、無駄遣いをして足りなくなったから金を借りた。お前はその担保として私に差し出されたにすぎない」


 きーきー喚く伯爵夫人。

 静かに怒りをぶちまける伯爵。


「喚くのなら喚けばいい。喚いて変わる現実などあり得ん。それに、お前は沢山の罪をおかしている。今ここで殺さないだけでも私は優しい方だ」

「うるさいうるさいうるさい!」

「喚くだけなら猿でも出来る。選ぶがいい。ここで今、殺されるか法の裁きを受けるか」

「あなたたちを殺す! それ以外に選択肢はないわ!」

「お前は選択肢を作る側ではなくて選ぶ側だ。立場をわきまえろ」


 手を思いっきり踏む伯爵。

 痛そうに顔を顰める夫人。


「メイドに助けを呼ぶか? だが、メイドは大体お前がゾンビにしてしまったものな。執事でも呼ぶか? ああ、そうか。今はゾンビか」

「ぐっ……」

「私はお前に対して恨みはなかった。離婚といえば、それ相応のものをもらった上で離婚はしてもよかった。だがしかし、屋敷の者をゾンビにしてしまった罪……。その点に関してはどんなものをもらっても拭えたりせんな」


 そう話していると、王騎士だ!と言って突入してくる声があった。

 鎧を纏っているルグレスやイオリ。伯爵の怒りを見て何事だと告げる。

 私は端的に説明することにした。


「この夫人が屋敷の人をゾンビにして伯爵を殺そうとした」

「違うわ! この女の言ってることはすべてデタラメ! 私がゾンビに殺されそうになってるの!」

「…………」

「伯爵。どちらが本当でありますか」


 ルグレスは伯爵に問う。伯爵はルグレスに目を向けず答える。「取り押さえているほうだ……」と。

 

「嘘! その二人はグルなのよ! 二人で共謀して私を殺そうとしているの!」

「伯爵はともかく、私とは面識ないでしょ」

「伯爵に雇われたんでしょ!? 私を殺すために!」

「それは私に何のメリットがあるのでしょうか」

「伯爵から大金を積まれているのでしょう!」


 と、私も同罪だ、と冤罪を被せようとしてくるが。


「大金を積まれたとて仮にも貴族であるあなたを殺すのは無理でしょう。貴族殺しは重罪だと存じております。国外へ逃亡しなくてはならない、あるいは隠れながら過ごさなければならないというリスクも考えれば、大金積まれても殺害という仕事は割にあいませんし、もし受けていたとしたら今こうやって取り押さえてはいません」

「それもそうである」

「貴族である私の言葉よりそのちっぽけな小娘の言葉を信じるの!? なんでよ! なんでなのよ!」

「連行してくれたまえ。もう目障りだ」


 伯爵は王騎士に命令を下した。

 夫人はイオリたちによって連れていかれる。取り残された伯爵とルグレス。


「ゾンビとなってしまった以上……もはや生き返るすべはあるまい。一人残らず倒してはくれまいか。シグレ殿」

「……はい。これは金はいりません」

「…………」

「メイド一人だけでも無事でよかったじゃないですか」

「なぜ無事だったのだろうか疑問は……」

「エドワードくんがメイド一人をお化け役にしていたからですよ」


 私がそういうと、伯爵はどういう意味だ?と問いかけてくる。


「エドワードくんはあなたが忙しそうにしてて話しかけづらかったんですよ。お化け騒動を起こして自分が解決したら褒めてくれたりするんじゃないかって。だから午後十時にメイド一人を床下に待機させて冷蔵魔道具を開け閉めさせてたんです」

「エドワードが……」

「これが終わったら、今は精神的にも辛いかもしれませんがエドワードくんと話して褒めてあげてください。怒らないであげてください。エドワードくんは寂しかっただけなんです」

「わかった……」


 ルグレスは伯爵に許可を取り、部屋を調べていると、ゾンビパウダーと呼ばれるものを見つけていた。

 呪術に使うもので、吸い込むとゾンビになってしまうというもの。摂取しなくては意味がない、のだが。


「食事に混ぜたんだろうな。メイドたちの……。夜の食事だろう。私たちの食事に混ぜなかったのはゾンビなんていうものにならず、絶望して死んでほしかった……ということだろう。もしかしたらエドワードのには入っていたかもしれないが……。エドワードはご飯を食べずにぐっすり眠っていたからな……」

「なるほど。だから夜のご飯食べてないあのメイドがゾンビにならなかったんですか」


 昼過ぎから床下で待機していたメイド。ご飯も食べていないということでゾンビ化は免れたんだろうな。

 悪運が強いメイドだな。


「では、私はゾンビを狩ってきます」

「……頼む」


 私は光陰の矢を構え、廊下に出たのだった。











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