幽霊の正体を見破れ ①
私は刀と宝石をしまう。
「この後何かするか?」
「んー、いや、いいかな。この街はあらかた探検し終えたし、私はあっちの国に戻るよ」
「そうか。じゃ、また今度一緒にクエストとかやろうな」
といって、私はグライドと別れを告げる。
翼を広げ、私は海を渡った。何も考えず、無心で空を飛ぶ。今日のことがあった以上、私自身何かしていないと考えてしまいそうになる。
全員無事だったのだから何も考えなくていいはずなのに。
「クソ……。やっぱ死ってのはきついな」
身近な誰かが死ぬのは嫌なものだ。
私はそのまま飛行していると、大陸が見えてきたのだった。ルーソ王国のアクエリオという港町。私はその港町を通り過ぎ、自分の拠点に戻ったのだった。
桜がいまだに咲き誇る拠点。過ごしやすいようにハンモックなどが設置されており、拠点の周りはサイクロプスが守ってくれていた。
「ただいま」
「オカエリナサイ」
サイクロプスは棍棒を持ちながら挨拶をしてきた。
「なにか変わったことはなかったか?」
「特ニナカッタ。デモ、依頼シニキタ人イタ」
「依頼?」
「オデガ代ワリニ聞イテオイタ」
と、一枚の羊皮紙を差し出してきた。
差出人はルメル伯爵家。依頼してきた日は昨日。レッドムーンの方にお願いがあります、つい先日、うちの屋敷で幽霊騒動がありました。その原因を調査していただきたい……ということだった。
幽霊騒動。へぇ。
「んじゃ、受けるか」
「イッテラッシャイ」
私は羊皮紙を手にして、ルメル伯爵家に向かうことにした。
依頼書にはルメル伯爵家の場所も書かれており、その所に行くと、豪華な西洋風のお屋敷があった。
鉄の門の前には門番が立っており、私は依頼書を見せると、確かにとうなずいて鉄の門が開かれる。
こんな夜遅くに来るのは申し訳ないけどな。
いろいろあって夜になってしまったが、幽霊騒動なら夜のほうがちょうどいいんじゃないだろうか。
私は中へ足を踏み入れる。すると、執事の人が出てきたのだった。
「いらっしゃいませ。レッドムーンの方だと聞いております。まずはご当主様のお話を聞いてくださいませ」
ということなので、私は応接の間へ案内されたのだった。
ソファに座らされ、紅茶を差し出される。レモンが浮かべられたレモンティーだった。私がレモンティーをいただいていると、白いひげを生やした男の人が入ってきた。
この人がルメル伯爵家当主だろう。
「こんな夜遅くに申し訳ございません」
「構わないよ。幽霊騒動となると夜のほうがぴったりだろう。改めて、私が依頼したルメル伯爵家当主、アーノルド・ルメルという。よろしく頼む」
「私はシグレと申します。それで、いきなりなのですが、幽霊騒動というのは?」
「実はうちの息子が厨房で幽霊を見たというのです。教会の神父にも来ていただき、霊視をしていただいたのですがいないということでして。ですが、息子のいうことが本当ならばどこかに幽霊がいる、か、それとも何か違うものが原因で幽霊と見間違えたんじゃないかと思いまして」
「はい」
「ですので、夜の間厨房で見張っていてほしいんです。夜の間」
「……いいんですが、具体的な時刻とかはわかりますか?」
「息子が幽霊を見たというのは午後10時辺りでした」
私は時計を見る。
もう少しで午後十時となる。
「厨房以外に幽霊を見たという証言などはありませんか」
「今のところ厨房以外で見たことがないのです」
ふむ、厨房以外には出没しないと考えていいだろうな。
「夜にしか出没しないので騎士団には頼めず、あなたたちを頼ることとなりました。寝る時間を奪ってしまい申し訳ない」
「いえ、大丈夫ですよ。それより、もう少しで十時になりますので、一度厨房を見てまいりましょうか?」
「はい。ご案内いたします」
というので、当主が執事を呼び、厨房に案内させたのだった。
十時にだけ出没する幽霊か。なんとも不思議だな。十時ならばまだ人が起きて居そうな時間帯でもある。
幽霊が出てくるとしたら本来は草木も眠る丑三つ時……。午前二時辺りだと思っているのだが。
幽霊の正体を見つけてやらないとな。私も気になるし。




