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親の気持ちは

 おばさんも、弟くんも目が覚めたようだった。

 ハルサメは改めて、真田さんたちに向き合う。そして、頭を下げた。

 自分に対する恨みがあなた達を巻き込んでしまったと。正直な話、送ってきた人が悪いが、ハルサメを恨む気持ちも分からないでもないのが辛いところだった。


「来栖殿。改めて申し訳ないであります……。自分がホームステイしていたから……」

「気にしなくてもいい。受け入れるということはこういうことも覚悟していたさ。それより、まだ送られてくるかもしれない。対処を……」

「上官に電話してみるであります」


 といって、ハルサメは携帯を取り出した。

 国際料金となるが、急いでかけないとこちらにまだ被害が及ぶだろう。

 それに、国を越えての襲撃とならば国際問題に発展しかねない。日本にそういう因子を持ち込みたくないのは同じ。


『……お願いするであります。居候してる身として、そういった懸念点はなくしておきたく……。はっ、手を煩わせてしまい……まぁ…はい。そうであります……。鬼神のハルサメに手を出したことを後悔させたいでありますが……。犯人は送り先の国名が……』


 と、電話の内容が聞こえてきた。


『はっ、了解であります。では、上官殿も元気で』


 そういって電話を切って、再び病室に入ってきた。

 

「上官殿がなんとかしてくれるそうであります。本当に申し訳ない……」

「ああ、気にするな。それに、謝る相手は俺だけじゃないだろ」

「そうであります。真田様、椎名様。大変に申し訳なく……。自分の殺害に巻き込まれるような形になってしまったこと、深くお詫び申し上げるであります……。誠に申し訳ありませんでした」

「……しょうがないよな。軍人で戦争に行ってたってことは人だって殺してるんだろ」

「…………」

「逆恨みされるのも当たり前だろうな。殺された人にも家族がいる」


 真田さんの父さんと椎名さんの父さんは理解を示していた。


「でも、今後うちとは関わらないでちょうだい」

「尊の命の方が大切よ……。だからもう二度と……」


 だがしかし、母親の方は反対していた。

 無理もない。巻き込まれるような形で娘を失いかけたんだ。そういう風に思うのも仕方がない。


「今なんの話してんのー?」

「私たちがハルサメさんと関わるなという話です……」

「えええーーーーっ!?」


 子どもたちは疎外されて考えている。

 親は普通は子供を守りたいという考えがある。ごく一般的な考え方であり、当然のことだ。

 そういう経験をしたのなら、その要因を遠ざけようとするのは仕方がない。本人の意思は無視してでも。


 その考え自体正しいので私は反論できない。

 その考えに反論できるのは自分の子供だけだ。


「……茶子はどうしたい」

「尊。お前もどうしたい」


 と、父親がそれぞれの子どもに問いかける。


「もちろん私は……」

「聞くまでもないだろう。父さんよ。ボクは母さんに反対されてでも友達で居続けるよ。死にかけたぐらいで僕の気持ちは揺らがないさ」

「わ、私もまだハルサメさんとは……」


 と、二人は友達をやめるつもりはないという。

 母親たちは何か言いたげにしていた。


「だそうだ」

「……でも、また死にかけたり、死んじゃったら」

「怖いですよね」


 自分も死んだからわかる。

 死というのは怖い。大切な人が死ぬなんてことは経験したくないものだ。

 それは私も、ミノルも知っている。


 ミノルは知っているからこそ、今黙ってしまったんだろうな。


「僕はなんと言われようがやめはしない。死ぬの上等さ」

「…………ちょっと怖いですけど。私は離れたくない」

「…………」


 死を恐れないという二人。強いな。


「…………」

「娘がこう言ってる以上引かないのはわかってるだろ。無理に引き剥がして、鬱とかになられたらそれこそ逆効果だ」

「…………」

「だから、引き離さなくてもいいだろ。その代わり……春雨さんと言ったね? 君がきちんと身の周りの安全を確保することだ。怪しいものはなるべく捨てるように。それが条件だ」

「……わかっているであります。自分が、守ります」

「よし、じゃ、この話は終わり! しばらく入院するんだから、お医者さんの話を聞かないとな。ほら、母さん。一旦帰ろう」

「……わかったわ」


 私たちは病院を後にした。

 私はミノルの父さんに持ち歩かれている。


「こんなくたびれたおじさんが持ってごめんなぁ」

「いえ……。でも今家帰れますかね?」

「換気作業も終わったことだし、母さんが倒れた時に溢したものとか拭くだけだって聞いているよ」


 それなら安心……。


「君がスマホの中にいてくれて助かったよ。もしいなかったら通報する人がいなくてみんな死んでいたかもしれない。全員生きていたのは君のおかげでもある」

「…………そうですね」

「ありがとう」


 照れ臭い。

 今回のことは本当に危なかった。私がこの電脳アバターの体でよかった。毒ガスを吸うことがないから、通報ができる。

 

「ありがとう。これからもミノルと仲良くしてやってくれ」

「……っす」


 言われなくても仲良くするつもりだ。

 家に帰ってきて、おじさんは二階へ上がる。塩化ガスが出ていた荷物は回収されており、部屋は今は何ともないようだ。


「さて、君はゲームしたいんだろう? これに繋げればいいのかな?」

「……はい」

「心配で出来ないかもしれないが、もう元気になったさ。ミノルはあの元気が売りだから」

「……そうですが、ハルサメが」

「ハルサメくんも、自分の責任だとわかってはいるし、それを気に病む子じゃないよ。あの子は強いから」

「……そうですね」


 ハルサメはきっと大丈夫。

 おじさんが繋げてくれたのでゲームに入れるようになった。私は扉を開けてログインすることにした。









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