欠如の要因
春雨自身、飲み込みは超早かった。
ちょっと苦戦するかなって思ってはいたが、なんだか詰まっていたゴミを取り除いたらすんなり通る水のようにあ、わかったかもしれませんと呟き、なんと普通に理解し始めていた。
すごいな。
「なるほど! こうなるのでありますな。それにしてもシグレ殿教えるの上手いでありますな」
「そう? 普通じゃない?」
「いえ、絶対上手いであります」
「いや、ミノルに教えるときは本当に苦戦するし……」
「……ミノル殿を基準にしているからではありませんか?」
といわれ、なんだか核心を突かれたようにちょっと黙ってしまった。
ミノルを基準にしているから……。あり得るかもしれない。ミノルはいろいろとアブノーマルだしあれを基準にして考えているから普通だと思ってるのか……?
あれ、真の敵はミノルだったりしない?
「あの、多分なのですが、その自己肯定感のなさってもしかしたらミノル殿がそばにいるからなのでは」
「……そうかもしれない。アレを基準に考えてるのが悪いかもしれない。だって常に一緒にいるんだもん。アレが基準になるよ絶対」
「……ちょっとミコト殿とかに相談してみるであります」
あれ、真の敵は本当にミノルだったりしない?
ミノルをいつのまにか基準として考えていた。それ自体がまずい発想だったのでは。もうちょい私は世界を見るべきだったのだろうか。
いや、でも……。それでもだ。ミノルとかいうアブノーマルを基準にせざるを得ない。だって私の世界にはミノルしかいないから……。
「春雨さーん。何か荷物が……ってゲームしてる最中だったのね。ここ置いとくわ。っと、シグレちゃんも部屋に来てるのね」
「あ、はい」
「その、ごめんなさいね。うちのミノルが……。ついこの前記憶失くしてミノルが振り回して……」
「いえ……別に大丈夫ですよ……」
「そう……。ならいいのだけれど」
といって、おばさんは春雨の部屋から出ていった。
すると、春雨がログアウトしてきた。
「とりあえずミコト殿とぽんぽこ殿が来るようであります」
「そう……」
十分後、ぽんぽこたちがやってきた。
「なるほど。シグレくんが考えるに、シグレ君の考えはミノル君を基準にしているからと」
「だと思う……。常に一緒にいるし、そうならざるを得なかったんだと思う。ここが自分の世界だと認識した……。その、言っちゃ悪いんだけど虐待みたいな感じで……」
「なるほど……。たしかに理屈は理解できます……」
私自身気づけたのは偉いと思う。
問題なのは、だからといってミノル離れしますというと、ミノルが絶対騒ぎ出すことだ。ミノル自身、私と離れたくないと望んでいるし。
「こればかりは私のメンタルの問題なんだけどさ……。メモリーロック起こすぐらいだからメンタルそこまで強くないんだよ」
「……ずけずけと物を言う君のメンタルが強くないというのは疑問を呈するが」
「私か弱いから」
「…………?」
そこで全員首をかしげなくてもいいんじゃない?
メモリーロックを起こすぐらいなんだから。か弱い私はメンタルがもろいんだよ。
「だから……。まぁ、ちょっと協力してほしいのが、私がミノルはこうだからとか言っていたら咎めてほしいってこと。ミノルには気づかれずに」
「なぜ気づかれてはいけないんだい?」
「アレうるさいから。私じゃ何でダメなのーーーーー!とか言い出すよ」
「物まね似てますね」
そこはいいんだよ物まねは。
「今だってミノルだけ仲間外れだから気づかれたら騒ぎだして……」
「あーーーーーー! うちだけなんで仲間はずれなのーーーーーーー!」
と、扉を開けていたのはミノルだった。
「こんな風に」
「何話してんのっ! うちも混ぜて! 混ぜてよーーーー!」
「わ、悪い。ミノル君」
「ちょっと勉強のことを相談していたんです。シグレさんに」
「べ、べんきょ……。うち、ゲームしてるから」
と、扉を閉めて出ていった。
逃げた。
「ぽんぽこ……。お前私よりミノルのこと理解してないか?」
「いえ……。ミノルさんは勉強のことになると嫌がるので……。猫除けみたいに勉強をちらつかせておけば……」
「完全に把握してらっしゃる」
勉強って単語で逃げだすのもどうかと思うんだがな。




