モンスターハウス ②
モンスターハウスというのは本当に厄介だった。
十分間、ただ生き延びていればいいというわけなのだが、それが本当にきつい。というのも、倒しても倒しても無尽蔵に湧いてくるし、倒さなくても逃げ場が少ないここでは逃げるという道がないというのが非常に厄介。
「…………」
私は割かしやばい状況に陥っていた。
開始から5分が経過した。ダメージもそれ相応に負っており、回復しながら戦っていたはいいんだけれども、回復薬も尽きてしまった。
これがモンスターハウスの恐ろしさで、アイテムの消費が速い。ハルサメのような集中力や戦闘力があればいらないが、こう長く戦いになると、消耗が本当に激しい。
ミミクもダメージ負いすぎて帰ってしまったし。
「まじでまずいかも……。もう使うしかないかな……」
私はアイギスの盾を使用した。
アイギスの盾の効果時間は2分。残り時間はあと5分。3分は自力で耐えなくちゃいけない。切れると同時に、生き延びるためにも頑張らないといけない。
私はその場で体力を回復するためにうずくまる。
「どうしたのでありますかシグレ殿!」
「体力回復だよちくしょう」
魔物が私めがけて攻撃すると、その攻撃がアイギスの盾によって反射され、自分に返っていく。アイギスの盾は展開している間はあらゆるダメージを無効化するという壊れた技なので、こうやって体力回復に専念できるというわけだ。
私は深く息を吸う。そして、吐き出す。
疲れた時は一度深呼吸。
すると、私の近くにハルサメが寄ってきた。その時、生き残るための天啓が舞い降りたのだった。私はハルサメに声をかける。
「あとは任せていいか?」
「いいであります」
「ありがと……」
私は影魔法を使用し、そのままハルサメの影に潜り込む。
生き残るためなら、ハルサメに任せたほうがいい。影の中にいれば魔法攻撃も攻撃もすべて当たらない。
ハルサメならばこういった戦いには慣れているだろうし任せてもいいだろう。適材適所。そういうわけだ。
もちろん、影の中からはハルサメの戦いっぷりが見える。
ハルサメはナイフ一本で無傷で今のところ戦えているようだ。化け物だなほんと……。私はギブしたのに。
……と、この思想がだめだな。またメモリーロックがかかる。
私は鬼神のようなハルサメを見ながらも、ただただ時間が経つのを待っていた。
「ははっ」
「戦って笑ってるよ……」
笑いながらもナイフを魔物に突き刺すハルサメ。
心が戦場に戻っているかのような感じだった。ハルサメは元軍人で、戦争で戦っていた経験もある。
戦争じゃ、10分なんていう短い時間じゃなく、1時間単位で戦うのだろう。こんな戦いは余裕そうだった。
「この自分をその程度の軍勢で止められるわけないであります。この程度の地獄なら戦場でたくさん見てきました」
「すごいなぁ」
素直にすごいと称賛するしかなかった。
地獄を見てきた経験が違う。修羅場を潜り抜けてきた数が違う。ほんとに、敵わない。私って本と、こんなやつに偉そうに嫉妬してんだもんなぁ。そりゃ救えないわ。
「とはいえ、シグレ殿の嵌っている地獄には自分は甘いものだと思っておりますが」
「私がいる場所が地獄?」
どういうことだ?
「影の中で見ているんでしょうな、自分のこと。この際だから自分も話します。私やミノル殿のような才能がないと、自分で思っているのでありますよね。シグレ殿は」
と、ハルサメが戦いながらも語りだした。
「自分の場合は強くなること以外生き残るすべがなかったということであります。人だってたくさん殺してきました。自分はたくさんの命を奪ったその屍の上で生きているようなものであります」
「…………」
「才能といえば才能でありますが、自分はシグレ殿に羨ましがられるような才能では有りません。戦いというのは勝ちもあれば負けもあります。戦いの才能なんて本来必要のないものなのであります」
「そっか……」
考えてみればそうだ。
ハルサメの場合、生きてきた環境が違う。
「それでも自分がうらやましいというのであれば、自分は……その、少し悲しくなります。自分に憧れる人がいるというのは複雑な気分なのであります」
「…………」
「これが自分なりの励ましであります。傷をえぐるような真似で申し訳ないでありますが」
「いや……」
申し訳ないのはこっちだ。
環境の違いなどを考慮してなかった。ハルサメが言っていたことが正論なのだと思う。
「お、モンスターがいなくなりました」
そういっていたので、私は影から出たのだった。
「……ちょっと助かったよ、ハルサメ」
「当然のことをしたまでであります」
気持ち的にも、少し救われた。




