発明家イルル ②
イルルの発明品はたくさんあるらしく、見せてもらえることになった。
すると、なにか出てきた。笛のようなものだった。小学校でもらうこととなるリコーダーのような笛。私に吹いてみろというので、吹いてみる。
リコーダーの吹き方なんて昔やっただけなのでそこまで使えないが。
ぴーひょろろーと吹いていると、どんどんイルルの瞼が重くなっていく。
「それは状態異常の笛といいましてぇ、使用者の魔力を使って相手になんらかの状態異常を与えるんですぅ。毒だったり麻痺だったり眠りだったり……ぐぅ」
「なるほど。私の魔力の場合は眠りということか……
「寝ちゃいけないですぅ」
と、冷蔵庫のようなものから何かを取り出した。
瓶に入った液体。それをぐいっと飲み干した。
「元気百倍ですよ!」
「……なにそれ」
「これはエナジィドリンクっていうものです! 元気になる食べ物を煮だして作った特製ドリンクですよ!」
エナドリか。ミノルがよく飲んでるな。
エナドリをキメ、イルルはラボから再び発明品を持ってきますと告げて出ていった。私はとりあえずこの部屋を少しだけ物色していると、タンスの中に何かの写真が入っていた。
家族写真のようだった。この小さい子はイルルだとして……。この二人は見たことがない。私はそう疑問に思っていると、写真を取り上げられる。
「な、なにみてるんですかぁ!」
「あ、ごめん。見ちゃいけないものだった?」
「そ、そんなことはないんですけどぉ……」
と、大事そうに抱えるイルル。
「そんなに大事なものに手を出して悪かったよ……。それ、ご両親?」
「……はい」
「ご両親はどこで?」
「……十年前に死にました」
おっと、地雷だったか。
「ご、ごめん」
「い、いいんです。ただ、ご両親のことはなるべく調べないでください……。きっと私を幻滅することになります。あなたたちも街の人と同じならば……」
「街の人と……?」
なにか訳があるようだ。
私は、少し考えてみる。よく考えればこのラボは街の少し外れたところにあった。まるで追いやられたかのように。
それも関係があるということだろうか。
「…………」
「……やっぱ気になっちゃいます?」
「そりゃね……。私は別に滅多なことじゃ幻滅はしないけど」
「……話してほしいんですか?」
「力になれるかはわからないし、過去を詮索するようなことで申し訳ないけど気になりはする」
「そうですか。あなたは私の同志ですからね。話します」
そういって、写真をテーブルの上に置いた。
「実は、私の両親は十年前に処刑されました」
「しょ……」
「理由は、たくさんの人を殺してきたからです」
なるほど。
このイルルという女の子は殺人鬼の娘だからという理由でもしかしたら。
「たくさん人を殺してきて……。自分もその娘だと言って街の人は私を許してはくれませんでした。私は人を殺したことがないのだから処刑こそしないが、自らかかわることはない、と言われ、ずっと一人なんです」
「ふぅん……」
人殺しを親に持つということはその子供も苦労する。
「母さんも、父さんも暗殺者だったらしいんです。私はそれを知らずのこのこと暮らしていて……一人になって、発明に没頭するようになったんです」
「なるほどね……。私とは違い、殺人鬼を親に持つ娘か……」
身内が金持ちでも、犯罪者でも苦労は絶えない。
苦労のベクトルこそ違えど、親はそこまで好きじゃないようだ。
「この写真はそんなことを知らずにのうのうと生きてた時の私なんです! 戒めとして持ってるんです」
「戒め?」
「自分の親をも信用するな、と」
「の割には私を信用してるよね?」
「あなたは……悪い人じゃなさそうですもん」
そんな簡単な理由で人を信じることができるのか?
自分の親をも信用するなというようなことを考えておいて? 軽く人間不信なくせしておいて信じられるというのか?
理解に苦しむ。
「あなたはこの話をしても嫌そうな顔をしてませんので信じられます」
「……まぁ」
親と子だとしても親が優秀だから子供も優秀ということはないというように、親が殺人を犯す悪人でも娘までが悪人とは限らない。
一を見て百を察するというのは人間関係においてあまりにも最悪な風潮だ。
「私の話はこれで押しましです。さ。発明したものを見せましょう!」
「……イルルはどうするんだこれから」
「これから? そうですねぇ。とりあえず死ぬまで細々と過ごしますよ。いくら親とは違うと言えど、親がしでかしたことは子供にも責任が及ぶのは理解しているつもりですし。贖罪の意味を込めてここで細々と……」
「そうか……」
償いはしていかなくちゃいけないんだな。




