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そう簡単には変わらない

 記憶が戻った翌日、ゲームにログインし、チームで行動していた。

 アプデ内容も気になるが、私がやることはただただひとつ。昨日の記憶を消すこと。

 あんな小っ恥ずかしい記憶は無くなってしまった方がいい。


「うだらああああああ! 死に晒せやああああああ!!」


 煌雨の弓で狙撃。

 その様子を見ている後ろの四人。


「ものすごく荒ぶってますけど……」

「楽しそうだね!」

「あれは八つ当たりのような気がしなくもないでありますが」

「メモリーロック、無くしたから強制的に忘れられないもんねぇ」


 私はひたすら矢で敵を撃ち抜く。

 消してしまいたいあんな過去。私はなぜ自ら黒歴史となるようなものを作らにゃいかんのだ。

 自暴自棄になりつつも、私はダンジョンの攻略。


「才能がないとか抜かしながらも……割と戦闘スキルはあるのでありますが」

「今近づかない方がいいと思うー、多分狙撃されるよー」

「あれは戦うっていうより目に入った生物全員に攻撃してるって感じだね」

「殺戮兵器……?」


 私はひたすらに矢を放つ。

 ダンジョン最下層までいくと、ミノタウロスのような魔物が立っていた。

 

「よく来たな!」

「うるせえ!!」


 私はひたすら狙撃。

 ミノタウロスはそのままダウンし、消えて行く。素材を回収し、後ろに控えていたミノルたちに終わったと言うと。ミノルとハルサメ以外引いていた。


「どうした」

「……その戦闘スキルでよく何もないとか言いますね」

「あん? ……ああ、これは努力の賜物だよ。ワイトフールとか最初弓は当たんないわ、敵の攻撃とか躱せないわだったし。ただ頑張っただけだよ」


 ただ頑張っただけ。元々私はこんなに戦えるようなものではなかった。

 体に染みついてはいなかったようだが、記憶には刻まれているらしい。何の才能もないのなら頑張ることしかできない。他人を羨む暇があるなら頑張った方がよかったよ。


「私は頑張ることしか出来ないからね……」

「努力は誰でも出来ますが誰にでもできるというわけではないと思うでありますが」

「そう励ましてくれるだけでも救われるよ……」

「うーん。こりゃメモリーロック事件が終わったと言えど重症だね」

「自己肯定感があまりにも……」


 自分を肯定出来ないのは、原因こそ理解はしているが、一朝一夕で変われというのは難しいし、自己肯定感がマックスなミノルを見ていると別に肯定しなくてもいいかなとは思う。


「自己肯定感ありすぎるとミノルみたいにサボりそうだし」

「えっ!?」

「"勉強できないのも私! これぞマイノリティ!"とか言うだろ」

「…………」


 ミノルは目を逸らす。


「自己肯定感は別にいらないよ……。別にこんな私なんて誰も認めないんだからさ……。だから前を見て嫌なものは見ないことにした」

「…………悪化してません?」

「そうだな。前より悪化していると言える。でも、これは別にお前らのせいじゃない」


 そして、私のせいでもない。


「ま、考えてみれば私って既に死んでるようなもんだし、才能なんていらなかったわ」

「…………嘘つき」


 ミノルが涙目で睨む。

 私は笑顔のまま引き攣る。


「そうやって道化を演じるのやめてよ」

「……そうだね。ボクは仮にでも女優なのさ。そんな嘘が見え見えの演技じゃ騙せないよ」

「……なあ、演技って口に出すのやめろよ。こうやって道化でも演じてないと昨日のこと思いだしそうで死にたくなるんだよ」


 私もやっぱそういう才能みたいなのは欲しかったよ。とだけは心の中で呟いておく。


「えっと、シグレ殿は既に死んでる身なのですから死にたくなっても死ねないのでは?」

「ハルサメのマジレス」

「もういいよ。昨日の話は……。どうせシグレは変わんないだろうし」

「……まぁね」

「それより、アプデ内容を確認したいんだけど! どんなアプデが入ったのかなあ!」

「あー、公式サイトに載って……」

「見るのはつまんない! 自分たちで探そー!」

「私は嫌だ」


 そんな面倒なことしてたまるか。










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