想いはバグとなり
器用なようで不器用。
それが私への評価らしい。私でもわかる気がする。自分はもう不器用だって気づいていたはずなのに。
……ワカラナイ。
私の感情が、突然何かに支配されていくような感覚に陥った。
「じゃあ、あなたに私の何がわかるんですか」
「……シグレ?」
「私の周りっていつもそうですよね……。私をわかった気でいて……いっつも不快だよ」
私の本意ではない言葉が口から出てくる。
「そんなのもう沢山! 沢山だ!」
「し、しし、シグレ?」
「なんでみんな誰も私をわかってくれないんだよ。なんでみんな分かったつもりでいるんだよ」
「……あからさまに様子がおかしいぞ!」
「まずい、なにかバグが起きてるのかもしれない……! 速攻ログアウトしたいけど……ここは安全地帯じゃないし……」
「ならばこうするしかないでありますな」
と、突然現れたハルサメが私にナイフを突き立てた。
いらんことをほざいていた私が強制的にログアウトしていく。目の前に出たのは現実の世界。
「もどってkkれtのか」
上手く口が動かない。
まだ、何か言いたげな私の口。
「時雨!」
「ミノル……なんかわたsおかsみたいd」
「なんで……。あ、もしかしたら!」
と、ミノルはパソコンを確認していた。
私のスマホと接続すると、やっぱりという声を上げる。
「メモリーロックが解きかけてる! でも、これ以上行かない……?」
「きttほんn全bはnしてないkら」
「……とりあえずみんな呼ぼう」
そういうと、ミノルは電話をかけ始めた。
そして、十数分後には夜遅いにもかかわらず、ミノルの部屋にミコトたちが集まってきた。私はさっきのことを言ってみると。
「多分まだ本音を全部話してないから……と説明したかったんだと思います」
「それだ! でも、さっきは不調だろ? 今は?」
「うまくkとbがだsない。なnかおかsい」
「メモリーロックが解きかけてる。多分ちょっといじくったら本音を全部吐き出すと思う」
「よし、やろうか」
「でも、どんなことを言われるかはわかんない……。時雨の言葉はとても鋭利だから」
私の言葉はとても鋭いらしい。
だがしかし、覚悟はあるようで、ほか三人もわかったと覚悟を決めていた。
「じゃ、いじくるよ」
と、パソコンで何か操作をした途端、私の口が開きだす。
「なんで……みんな私を望むんだよ……」
と、私の口から言葉がこぼれだす。
推測するに、これはもしかしたら私の……。
「何もない、みじめな私を望むなよ……。何も知らないくせに、わかったつもりになるんじゃねえよ……。余計惨めになるだけだろうが……」
「…………」
「目をふさいで、耳を閉じて生きていたほうが楽なんだよ……。なんでこれ以上私を望むんだよ! お前らはずっと記憶をなくしたままの私と付き合ってればお互い傷つかなくて済む! それなのに……」
「…………」
「もう嫌なんだよ……。周りと見比べられるのは……。なんで私は努力しても、頑張っても頑張っても追いつけねえんだよ……。ミノルも、ミコトも、ハルサメも、真田さんも……もう私を望まないでくれ。私はもう疲れた。永遠に引きこもっていたい」
怠惰な奴だ。
私だったら絶対一発はぶんなぐる。なにをなめたことを言ってるんだろうか。私は頭の中でそう抗議していた。
だがしかし、言葉の主導権は前の私が持っているようなので、話すことができない。
私だって、記憶を取り戻したい。こんなバカげた戯言、お前は本当になにもわかってない。
「時雨……」
「んだよ」
「ばーーーーーーーーーか!!!」
と、ミノルが大声で罵倒した。
「永遠に引きこもらせることなんてうちが許すと思ってんの? 何度でもいじくって呼び戻そうとするし、なんどでもやるよ。時雨はそういうのうざくていやだもんね」
「…………ちっ」
「それに、なにが周りと見比べられるのは嫌だ、だ。そんなの周りが悪いっしょ。それが嫌ならうちらだけを見ろ」
「うんうん」
そういうと、うろたえたように私の口から弱弱しい言葉が出る。
その瞬間、全部思い出してきたのだった。私が死んだことも、なにもかも。
「時雨って賢そうに見えてうちとおなじでバカだよ!」
「そうですね。って、あれ? メモリーロック解けてません?」
「……本当だ。ね、ねえ、思い出したの?」
私に問いかけられる問いに、私は思わず口に出す。
「まだ思い出せない」
と、答えた。
というのも、ちょっと気恥ずかしい。記憶を取り戻した今、戻りたかった自分との記憶が結合して、なんかいらんことまで言ったなという恥ずかしさがある。
それに、なんだか自分がバカバカしくなっているっていうのもある。
「おかしいな……」
「…………」
「……目をそらしているでありますが」
「思い出してないというのは嘘、だと思うのだが気のせいか?」
「……気恥ずかしいだろ。なんか私と違う感覚があるんだよ。多分さっき言ったのは私の深層心理のようなもんだ。たしかにそう思っていたけれど、メモリーロックってやつにかかるとは思ってなかった」
「……本音ではあるのだな」
「多分。気づいてなかったけど」
私がそういうと。
「シグレーーーーーーー!!」
「もう夜だろ騒ぐな」
「……一件落着か。それにしてもメモリーロックってのは全部の記憶にメモリーをかけるんだな」
「いや……多分それはバグなんだと思う」
「バグ?」
「私が忘れたかったのはその、嫉妬した記憶だけだったんだよ。でも、何かの間違いで全部にロックがかかったんだと思う」
「なるほど」
その忘れてた気持ちが私をあんなふうに口走らせたのかもしれないが。
「とりあえず、みんなごめん」
私は深く謝った。




