思い出そうか ③
弓の精度もそこそこ良くなってはきた。
安心するにはまだ早いのだが、まあ、今日はこれぐらいで妥協してもいいと思う。
私は弓をしまい、今日は寝ようとミノルに提案しようとした時だった。
「ふはっ、ふはははははっ! 見つけたぞ、魔弾の射手を!」
「……?」
「誰だ? ってかなんで魔弾の射手なんだよ。悪魔にお願いしてるわけじゃないが」
「魔弾の射手はそういう物語なのだな」
「知らないで使ってんのかよ」
現れたのは全身黒尽くめで、眼帯で右目を隠してストールを首に向いている女。
ストールが風にたなびく。
「誰だ、という顔をしているな。私の名前はラース。七つの大罪である憤怒を司る者」
「…………」
「シグレ、七つの大罪ってなに?」
「傲慢、強欲、憤怒、色欲、嫉妬、暴食、怠惰の七つがあって、人間に罪を犯させる感情のこと……。ラースは憤怒という意味だ」
「へぇー。じゃー、シグレは何を司るの?」
「お前、わざとか?」
私が司るものは決まっている。
「嫉妬だろうな」
「嫉妬……?」
「はーっはっは! 貴様はエンヴィーか! 我が同胞と出会えるなんて奇跡ではないか!」
「……うるせえよ」
同胞にするなよ。
私はミノルを連れて帰ろうとすると、引き止めてきた。私は腕を掴まれて思いっきりイヤな顔をする。
だがしかし、相手は図太いのか気にすることもなかった。
「ってか、なんでいきなり声を」
「それはこの私様が友人に頼まれたからだ」
「友人に? ミノルのか?」
「いや、うちにはこんなこーい知り合いいないけど!」
「はーっはっは! このボクさ!」
と、登場したのは椎名 尊。
王子様のような見た目をしている。装備はほとんど装飾に塗れていた。
ド派手、の一言に尽きる。
「ボクの友人の相浦 推華。この女は随分とメンタルが図太くてね。君の容赦ない口撃にも耐えるのさ」
「失礼だな。私様は傷つく時は傷つくものさ」
「…………」
「君も、このメンタルに触れてみるといい。自分より下がいるという安心感を得るといい」
「なぜ見下す方針でいくんだ?」
「君のような女王様気質なら喜ぶかなと」
どんな気質だよ。
「全くもって見当違いも甚だしいわ」
「そのキツい口撃はやはりシグレくん! 記憶を失ってもシグレくんだ!」
「うぜえ……」
「性格も今のシグレそっくりってことは記憶だけ抜け落ちた感じですね……」
「そんなにそっくりなの?」
記憶だけ抜け落ちただけってことか……。
「じゃあ思い出さなくても私なんじゃないの?」
「思い出はあるもん!!!」
だよね。
思い出は確かに必要かもしれない。私にだってミノルとの思い出はあるはずなんだ。
「…………?」
「悪かったな、ラース」
「私様はなんのために呼ばれてきたのだ!」
「あ、メンタルにひび入った」
「うるさい! 覚えていたまえ〜!」
三下のようなセリフを吐き、逃げていった。
「あいつは打たれ弱い時もある。こういうように」
「でも、人前であんな口上述べるのは素直に賞賛……」
「私が言いたいことは少しくらいずぶとく生きろということさ。君は器用に見えて不器用ということ」
「……そう」
不器用か。




