思い出そうか ①
アンリミテッドワールドというゲームをやらされることとなった。
正直な話、この手のゲームはやることが初めて。私自身、ゲームやっている暇はなかった気がする。
記憶が抜け落ちているのは本当のようで、少々自分自身のことに弊害が起きている。
名前ぐらいしか覚えていない……。
大体の物事を忘れているようだった。本来、忘れるというのは自衛のためのもの。
嫌なものから逃げたい、嫌なものを覚えていたく無いという心理から来るものだと思っている。
私はそこまで追い込まれていたのか?
私は……何でそこまで追い詰められてるんだ? わからない。何もかもわからない……。
「その扉の中に入るんだよ。時雨」
「…………」
「時雨?」
「わからない……。なんで、私はこんなにも忘れようとしてるのか。何で私はそこまで追い詰められているのか。私は何に悩んでいるんだ」
「おーい」
「……忘れていたほうが、幸せ?」
私は、忘れていた方が幸せになれると、つい数時間前に口に出していた。
ならば思い出さない方が自分のためになるんだろうか。
「……時雨」
「あ、ああ。中に入るよ。ごめん」
「忘れていた方が幸せって……なんだよ……。うちと時雨の友情ってそんなもんだったの……? ふざけないでよ……。私は、私はっ!」
「み、ミノル?」
「なんでっ、なんでうちを忘れるんだよ! 忘れた方が幸せなわけあるか! うちは覚えていてほしいよ! 時雨のために勉強頑張るからさ……」
「…………」
「だから幸せだとかいうなよ……。うちが、うちを覚えていてほしいという自分がバカみたいじゃん……」
「ごめん」
ならば意地でも思い出すしか無い。泣かれてしまったのならば。
誰かを泣かしてまで自分を守りたいだなんて馬鹿げてるよな。
私は扉を開ける。
ゲームをやれば何か思い出せるのだろうか。
では、ログイン。
扉を開け一歩踏み出す。
すると、私の服装が変化し、白い翼が生える。なにこれ。前の私こんな目立つような感じだったの?
私は気がつくとベッドの上にいた。
「……えっ、嘘、マジで?」
私は自分の姿を見る。
偉そうな王冠に衣服。白い羽……。こんな目立つような格好を……?
前の私はなんでこんなことなってんだ。
「……でも恥ずかしがってはられないか。この姿に……このゲームに思い出す要素があるかもしれないんだよな」
私は扉から出る。
しかし、このVRMMOというのは不思議だ。五体満足で動かせる。
不思議だ。
「ログインしましたか? シグレさん」
「え? あ、うん。茶子……って、私と同じくらいの身長だ」
「ゲームの中ですからね。現実だとあなたはスマホの中ということもあってデカく見えますよね。それに、ゲームでは私をぽんぽこと呼んでください。ゲームでは」
「わ、わかったよぽんぽこ」
どうやらゲームではリアルネームを呼んではいけない決まりがあるようだ。
だがしかしまて。
「でもさっきぽんぽこは私をシグレと呼んでなかったか?」
「シグレさんは自分の名前でゲームをプレイしてるので……。ステータス欄を見ればわかります」
「…………」
なぜシグレと名前にしてるんだ私よ。
記憶を失う前の私ってこんなリテラシーとかが無いのか? それとも自分に自信があったのか?
分からない。
まあ、何はともあれ。
「始めるとしようか」
私を思い出すためのゲームを。




