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忘れてしまえばいい ④

 茶子という女性は話を切り出した。


「時雨さん……その、お三方に憧れというか嫉妬みたいなのをしてたんじゃないかなって……」

「嫉妬?」

「お三方はそれぞれ戦いだとか、プログラムとか、演技とかで輝いてる人たちじゃないですか」


 茶子の話をまじめに聞く三人。


「時雨さん、多分そういうのにあこがれがあるんですよ。自分だって何か才能が欲しいみたいな。前に不死帝さんから時雨さんの過去の話を聞いて、そう思ってたんです」

「……過去?」

「今の時雨さんはどこからの記憶がないのかはわかりませんけど……。一度過去を話してくれてるんです」


 私の過去?

 どこまで覚えているか? それがわからない。なんだか記憶が不自然なくらいにつながっていない。


「言い方は悪いんですが、あなたたちって才能があって今があるっていう風な感じじゃないですか」

「ふむ、たしかに。ここまで有名になれたのも僕には才能があったってことだろうね」

「でも時雨さんって努力だけでここまで来てるんですよ。努力してやっと背中が見えてきた凡人が、天才の背中を見たら……誰だってやる気をなくします。圧倒的な才能を見せつけられたらそれこそ忘れたくなりませんかね」

「……あるかもしれない。うち、ちょっと昨日、アプリを開発してそれ時雨に見せたん……」


 私がこうなった理由は、もしかしてこの三人のせい、だというのか?

 何もかも忘れるくらいに……この三人は私に対してひどいことをしているというのか? だがしかし、想像もつかない。

 テンションが高いこいつらといえど、私を傷つけるなんてことは……。


「記憶を取り戻すには多分……。そのコンプレックスをなくす必要があるんじゃないですかね」

「……時雨のことだから自分で思い出す! ってうちは言いたいけど」

「それだといつになるかわからん。僕はいつもの時雨くんのほうが好きだ」

「自分たちを思い出させるキッカケが必要かもしれないでありますな」


 思い出す。そのことが本当に私にとって幸せなんだろうか。

 私はそう考えていると、口が勝手に開いた。


「今更思い出さなくてもいいんじゃない?」


 と、勝手に口が動き出す。

 私の意志とは反して。


「思い出しただけでお前らを見てまた絶望するだけだよ。なら思い出さなくていいじゃん。忘れてたほうが幸せだってこともあると思うんだよ」

「……時雨?」

「忘れて記憶がなくなったままの私と仲良くしたほうが絶対にいいよ。そのほうが私のせいでお前らが傷つかなくて済む、私も傷つかなくて済む」

「記憶、戻ったんですか……?」


 私の口は一度勝手に閉じた。


「いや……今のは私の意志で話してないけど……」

「……となると元の記憶の片鱗か? 話しぶりからして、元の時雨くんだったようだが」

「あたかも忘れた自分を別人のように話しておりましたな」


 ……忘れている記憶が少しだけ呼応した、と考えればいいのだろうか。


「それはいいの! 問題は時雨の発言だよ! 何それっ! 意味わかんない! なんでうちらが傷つくこと前提で話してんのさ! うちはどっちの時雨も好きなのに!」

「そうだな。僕もそう思う。今の時雨君の発言は……少々癪に障る」

「こうなれば全力で思い出させるほかないようでありますな」

「だとしたら、やっぱゲームしかないですよね。私たちが深くかかわっていたのはゲームですから」


 げーむ?









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