忘れてしまえばいい ③
この来栖という女子高生が通っている高校についた。
学校につくや否や、机の周りには女子が数名集まってくる。
「……ミノルさん、浮かない顔だね?」
「……うーん。わかっちゃう?」
「わかりますよ……。だって珍しいですから。なにかあったんですか?」
「あったにはあったけど……」
そういうと、来栖は私の姿をみんなに見せていた。
「……えっと、誰だ」
「えっ」
と、口元を抑えたのは小柄な女子高生。
「えっと、バグかなにかでメモリーロックっていうのがかかっちゃって……。どこからの記憶かはわかんないけどすっぽり抜け落ちてるんだよね」
「……なるほど。記憶喪失」
「だとしても、なんでですか? 何で記憶喪失に……」
「わかんない。このメモリーロックってのは本来自衛のためにつけたんだよ。嫌なことを絶対思い出したくない時ってあるでしょ? そのために思い出させないように付けたんだけど……」
「それって……僕たちのことが嫌だから忘れたんじゃないだろうか」
お前らのことが嫌だから……?
「だと思う。うち、時雨に嫌われてたんだと思う」
「……そんなことは、ないと思うが」
私が誰かを嫌うなんて……。嫌うことはあるが、この来栖という女は騒がしいと思えど嫌う要素はないはず。
私が来栖たちを忘れたかった……?
「悲しいかな。一方通行の思いだったようだ」
「……でも、本当に嫌われてたんでしょうか。時雨さんって割と感情を表に出すタイプでしたし嫌いだったらそういうそぶりを見せるような気がしますが」
「そうでありますな。ですがそのような感情は感じ取れなかったであります」
目の前の四人が会話し始めた。
「ミノルさん。昨日、何か寝る前に時雨さん何か言ってませんでした?」
「さぁ……。うちがカップ麺食べてるときに気づいたら寝てたし……」
「ふむ。寝る前の言葉で何かわからないものかと思ったが……。それはないようだね」
「となると、もしかしたら自分たちに共通するものが怖かったのかもしれませんな」
「共通するものなんてありませんけど……。しいて言うなら女性っていうことですけど時雨さんも女性ですし、体の有無も今更っていう感じですし……」
「じゃあなんなんだろ」
「話してるところ悪いが、自己紹介してくれ。わからん」
「あ、そうだったね」
誰が誰だかわからない。
「まず僕から行こう! 僕は椎名 尊! 女優として活動しているのさっ! 今は休止中だがね!」
「自分は鬼島 春雨。元軍人であります」
「えっと、真田 茶子です。特に何もないです……」
顔が整っているのがミコト、筋肉質なのがハルサメ、小柄な子が茶子、か。
「えっと、私は夜桜 時雨。えっと……なにもないな。私には」
「……ん?」
「よろしく頼む」
私は一応お辞儀だけはしておいた。
「……何もない?」
「それがどーかしたの?」
「いや……もしかしたらなんですけど」
と、茶子が話し始めたのだった。




