忘れてしまえばいい ②
目が覚めた。
なんだか頭が軽い。ここはどこなのだろう。真っ白な空間の中に私はいた。
「……ここは」
目の前にあるのはでかいモニターのような画面。
なんだか少し身長が伸びている感じがする。ここはどこだ? 真っ白な空間……。ここは一体何なんだ?
そう思っていると、モニター越しに声が聞こえてくる。知らない女の声だ。
「時雨ー、おはよー」
「……誰だ?」
若い女の子の声。
私はモニターを見てみると寝ぼけ顔のギャルみたいな女子高生がのぞき込んでいた。
「誰って時雨寝ぼけたのー?」
「知らないから言っている。誰だよ。なんで私の名前を知っている。それにここはどこだ? 私は家のベッドで寝ていたはず。お前……誘拐したのか?」
「誘拐ってそんなねぇー。そこはスマホの中だよ。忘れたのー? 時雨らしくなーい」
「……うるさい話し方。それにスマホの中だと? 人間がスマホの中に入れるわけ」
「そりゃ時雨は体ないしねぇ。死んじゃったし……。で、時雨今何時?」
「死んだ……? 私が死んだ……?」
この女は私が死んだといっていた。
いつ? なぜ? 私はいつ死んだんだ。
「んもー。おっちょこちょいだなぁ」
「……私は」
なぜ死んだんだ。
私が悩んでいると、その女が声を出す。
「……えっ、まじでわかってないの?」
「何がだ?」
「えっ、誰この時雨……。時雨じゃない……」
「何言ってるんだよ。私は時雨だよ」
「違う……。もしかして、バグ……? ちょっと待ってよ」
と、その女はパソコンに向き合った。すると、驚いた声を出す。
「なにこのメモリーロック! 記憶を封印? なんでかかってんの!?」
「……メモリーロック?」
「これがあるから記憶が……。でもなんで? 要因として考えられるのは時雨本人が強く忘れたいと願った……ってことだけど時雨嫌なことでもあったのかな……」
「…………」
「これは直しようがないよ……。時雨本人に思い出してもらわないと……」
「…………」
メモリーロック……? 私が強く忘れたかったこと……?
少し頭が痛くなってきた気がする。
「……えっと、どしよ。記憶なくなった時雨」
「……私は記憶がないのか?」
「う、うん。人間でいう記憶喪失のような感じ……。なんか嫌なことでもあった?」
「記憶喪失っていうぐらいだから覚えてるわけないだろう」
「あはは。だよねー。だよねー……。困ったなぁ……」
と、弱弱しく声を出す。
「とりあえず、じこしょーかい! うちは来栖 実っていうんだ!」
「……夜桜 時雨」
「よし、自己紹介はこれで終わりだね! じゃ、まずはいろいろ思い出すためにも学校行ってみよー!」
「……学校? この格好でどうやって中学に通えばいいっていうの?」
「時雨はこうこうせーだよ! ってかうちの高校につれてくし!」
「……はぁ」
この女、テンション高すぎないだろうか。
ちょっと疲れるな。私はそう溜息ついた。
ここがスマホの中だというのなら、私が暴れたところでなにも変わらないだろう。スマホを動かせるわけでもないのだから。
訳が分からない。目が覚めたら死んでるなんて言われて、スマホの中だといわれて、じゃあ、私は何で意識があるんだ? なんで生きているんだ?
つじつまが合わない。私はこうやって生きている。なのに死んだ?
「なんなんだよ……」




