忘れてしまえばいい ①
私の周りには才能ある人ばかりがいる。
ミノルはプログラミング、ハルサメは戦闘。ミコトは演技、真田さんはコミュ能力。対する私には?
私には何の才能もないのだ。
出来がいいわけでもなく、大して運動できるわけでもなく。ただただいいところに生まれただけの箱入り娘だ。
私にもそんな才能が欲しかった。
「……ないものねだりだよなぁ」
ないものをねだってもしょうがない。
今ある武器で……とも思えないけれど。
「ダメだな。なんか弱気になってる。圧倒的な才能を見せられるとこういう風になるのかな」
ハルサメを見てもそうだった。
恐怖心を抱いていた。それはただただハルサメの戦闘力が怖かったからだけだろうか。違う。今だからこそわかるが、才能というものが怖かったのかもしれない。
私には才能もないから、なんの対応もできない。
ハルサメやミノルに敵うはずもない。
だからこそ怖かったんだろう。
「……泣けてくるな」
私は気分が少し弱まっていた。
はぁ、と溜息をついたとき、部屋の扉が開かれる。
「いいのでありますか?」
「いいのいいの! カップ麺パーティ! おかーさんたちは寝てるから静かにね。何食べたいハルサメー」
「ではこのカレーうどんを……」
「じゃー、うちはたぬきそばっ!」
そういうと、ミノルはハルサメに持たせていた熱々のお湯を注いでいた。
熱々のやかんを雑誌の上に置き、割り箸を二の上に置いて、ミノルは手を合わせながら待っていた。ハルサメも少しうれしそうな顔を浮かべて待っていた。
「はふぁー! うちの部屋がカレーのにおい!」
「カレーうどん以外にするべきでありましたか?」
「いいんだよ! カレーうどん美味しいしカレーもいい匂いだから!」
ミノルに恐怖心を抱いてこなかったのはこの天真爛漫な明るさにもよるのだろうか。
だがしかし、単独行動を好むのは……やはり無意識にミノルたちという天才の輪の中に紛れ込みたくなかったということかもしれない。
「ほらシグレ! シグレは食べれないと思うけどカプ麺ぱーてーしよー!」
「お前眠いんだろ」
「眠くないッ! あ、もー時間だ! いただきまーす!」
ミノルは蕎麦をすすっていた。
私はその様子を見ながら、目を閉じる。こんな風に弱気になっているのは夜のせいだ。暗いから私も暗くなっているんだろう。
寝て忘れよう。何もかも忘れよう。この恐怖心も……。時間が解決してくれるさ。
ピピッ……ガガッ……。
何かノイズのようなものが聞こえた気がした。
そして、私は意識を深く、深く落としたのだった。
《メモリーロックを開始します……》
そういう声が聞こえたような、聞こえなかったような。




