来栖 実という化け物は
夜、遊びすぎたのでログアウトすると、ミノルが机の電灯をつけ、何かパソコンでキーボードを打ち込んでいた。
なにしてるんだろうか。
「なにしてるんだ?」
「あ、シグレログアウトしたん? 今ねー、ちょっとしたプログラム作ってるんだ。簡単な機能なんだけどね。アプリを作って、それで他人のスマホとかを行き来するの。もちろん誰の携帯でもいけるってわけじゃなくて、フレンド登録してる人のスマホでその人の許可が必要っていう感じに。このアプリがあれば無線で移動できるわけだし、まだ進化できるって思ってね!」
ということだった。
私のこの電脳アバターはデータであるということから、ミノルは無線で飛ばして再構築できるんじゃないかということを考えたらしい。
そのプログラムを組んでいるようだった。
「できんの?」
「もうかんせーするよ! 暇だから作ったん! バグとかは未検証だけど、これで問題ない、はず!」
と、ミノルはエンターキーを押した。
プログラムができたようで、そのプログラムをミノルのスマホに入れていた。そして、今度は私のスマホにそのプログラムをダウンロードさせている。
すると、青い扉ができたのだった。扉に手をかけてみると、鍵がかかって入れないようになっている。
「入れないけど」
「うちが許可出してないからねー。今許可してみる」
そういうと、扉が開いた。扉の先は暗闇になっており、私はその扉に入ると、足場が急に抜けたようになり、そのまま落ちていく。
そして、また白い空間にやってきた。ミノルの入れているアプリが目に入る。
「よし、検証成功! 体に不調とかなーい?」
「特にないが……」
「おー、それはぎょーこーぎょーこー。じゃー、今度は戻ってみて? 同じような手順で戻れるはず」
そういわれたので私は青い扉を開き、足を踏み出す。再び落ちていく感覚。そして、一瞬で景色は切り替わり、私のスマホの中に入っていた。
「うん、おっけーおっけー。これでどこにいてもシグレはうちのスマホと行き来できるよっ!」
「使いどころがないと思うけど」
「あるんだよなー。たとえば遠くに旅行いくじゃん? シグレのスマホをこっち置いていくじゃん? あらかじめゲーム機につなげておいて、シグレが旅行楽しんだーっていったらこっち戻ってきてゲームできるんだよ! どこにいてもこのスマホに戻ってこれるの! すごくない!?」
「あー」
なるほど。遠出する場合に、か。
片方が違うところにいるところに一瞬で行けるということ?
「……それって電話のような」
「そう! 電話を応用した感じだし! 電波の届く範囲なら移動できるよ! 仕組みはねー、まずデータを分解して、片方の携帯で再構築してるんだよね。意識体もデータで送れるってことがわかったし、容量制限でも行くのが遅くなるけど行き来できるって感じかなー」
「……まじで天才だなお前」
「それほどでもー!」
このアプリを一晩というか……数時間で仕上げている辺り割とやばい。
電脳アバターは作るのに四か月くらいかかったというが、プログラミングやC言語などを一から独学で勉強し、機材をそろえるというだけでざっと三か月半ということらしい。作れたのはその半月ほどの期間で済んだというのだからマジのバケモンだ。
「今ある仕組みを使って作ったしそれほどの労力はないしね! でも晩御飯も食べてないからおなかすいたー。夜食たーべよっ」
「おう。いってら」
私がゲームしていたのは9時間くらい。今の時刻は12時ちょっとすぎ。
9時間で構築を練り、プログラムを完成させるというのはどんなプログラマーでも難しいはず。プログラムしている途中にハプニングだったり、予想外の事態が起きたりするはずなのだ。
あいつは……。才能と呼べる類は超えている気がする。
やっぱ、私とは違うんだよな……。
何の才能もない私とは。




