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曰くつきの前作

 授業が終わり、ミノルは寒九に近づいてくる。


「シグレー! 一緒にかーえろ!」

「……いいのか?」


 私は寒九にそう尋ねると。


「顔合わせもすんだしいる理由はないだろう。それに……翠雨がそう簡単にすぐ返しに行くとは思えないから今いったほうがいい」


 ということだった。

 たしかにあの猟奇的なお姉ちゃんラブ勢の翠雨がそう簡単に返してくれるはずもないか。


 私はミノルのカバンの中に入れられて天蘭高校から帰ることになった。


「いやぁ、楽しかったねぇ!」

「つまんなかったけど。よくもまぁこういう授業をするもんだよ。価値観の相違をなくすためなのかもしれないけどすごくだるい」

「お金持ちの考えることはよくわかりませんね」


 帰りの電車の中で感想を言い合っていた。


「でも身になったっす!」

「……で、ミノル。誰こいつ」

「自己紹介もしたと思いますが、蒼春学園一年、風紀委員の宍戸 真昼っす! よろしくお願いしやす!」

「……元気だねぇ」

「うちも元気では負けてないし!」

「あんたは底なしだからもう殿堂入りだよ」


 何対抗心燃やしてんだお前。


「えっと、私たちは直帰していいんすよね?」

「そうですね。そのまま帰っていいそうです」

「直帰! ちょっきんちょっきん。シグレもちょっきんちょっきん」


 と、ちょきで私のスマホを切ろうという何とも幼稚な行動を。

 私は無視。ミノルは楽しくなってきたのかちょっきんちょっきんと小声で創作歌を歌い始めた。


 今日帰ってもアプデ中でゲームはできないから暇なんだよな。

 私は帰っても特にすることがなく、暇でしかないことを思い出す。ミノルと遊ぶったって言葉遊び大体ミノルが弱いからな……。

 勉強か、寝るかの二択。


「今日一日だけ前作のワイトフールやるか」

「えっ!?」


 そういうと、ミノルが歌うのをやめて驚いていた。

 ワイトフールというのは前作で、テロ事件が起きたゲーム。死んだらデスペナルティとしてステータスが半分になるという作品で、それが普通なのだが、ログアウトボタンだけでしかログアウトできなかったがために標的となった。


 あの事件もありサービス終了……してるかと思ったらまだサービスやってんの。テロの標的となった以外は割といいゲームだったし根強い人気があるんだろうな。

 だがしかし、ミノルはそのワイトフールがトラウマなようで。


「私のデータってあっちにも残ってるでしょ?」

「残ってるけど……! またあんなふうになったらどうするんだし!」

「ならないって。たぶん」

「多分じゃだめだし!」

「いいじゃん。私のヘッドギアとか、私の閉じ込められていたソフトとか持ってるでしょ? 今日一日だけだから」


 私はミノルにそうお願いし続け、ミノルはしょうがないといって折れる。ミノルは怖いからやらないといって、一日戻ってこれなかったら強制的に戻らせると約束をした。

 私はそういう約束で、帰ってそのワイトフールをプレイすることにした。


 家に帰り、ミノルは押入れから私の前のヘッドギアを取り出した。コードで私のスマホとつなげ、扉が現れる。

 茶色い扉だった。


「……気を付けてね!」

「うん。ま、楽しんでくるよ」


 私は、扉を開けて一歩踏み出した。









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