天蘭高校にて ①
朝を迎えた。
朝日が書斎の中に入ってくる。私は目が覚めたのでただただぼーっとしていると書斎の扉が開かれる。
入ってきのは翠雨と、寒九。二人とも制服の姿に着替えているようだった。
「スマホの中に戻ってもらえるか? シグレさん」
「いいけど」
私はスマホの中に入った。
すると、寒九は私をそのままカバンの中に入れる。どうやら二人一緒に登校するようで、夜桜家の車に乗りこんだ。
通っているところはなんとなくわかってはいるが。
「お前ら二人とも天蘭か?」
「そうだよ。こういうとき中学付随高校って楽だよな」
「お姉ちゃん。学校で寒九のギャップに驚かないでね」
「ギャップ?」
「……うるさいぞ、翠雨」
なんか心配だなぁ。
私は一緒に連れていかれ、翠雨が名残惜しそうにしている中、寒九と共に寒九の教室に向かう。寒九は高校二年生らしく、二年生の教室に入っていった。
同年代か、私と。
「おはようございます、夜桜様」
「……ああ」
……この声って。
そうか。天蘭は小学校からエレベーター式であるがために……。一応私の知った顔はいるというわけだ。
考えてなかったな……。
「夜桜様、それ新しいスマホですか? 最新機種じゃないですか!」
「借り物だから触んな」
「はーい」
そういって女子が群がってくる。すると、その女子の群れをかき分けて金髪に髪を染めている女の子が割って入ってきた。
その子は知っている。
「これ寒九のスマホ?」
と、私の入っているスマホを手に取ったその女の子。私とばっちり目が合う。
「よぅ、久しぶり」
「えっ」
私はそう声を出すと、その金髪の女の子は固まってしまう。
目の前にいるのは小学校での私の唯一の友人だった女の子だ。名前は西園寺 三美。西園寺家のご令嬢で、昔はおしとやかな女の子だった記憶がある。
「えーと、テレビ電話かな。もしもーし。久しぶり、シグレ」
「テレビ電話じゃなくてこのスマホの中にいるんだけど」
「……は?」
「私の体、朽ち果てちゃって今こういう状態なの」
「えぇええええええ!?」
大声を張り上げる三美。
「知り合いか? シグレさん」
「昔の友達。やっほー、覚えてる?」
「うそうそうそうそ、なんで死んじゃってるのシグレぇ! また会いに来るっていったじゃん! お勧めの本だとか用意して待ってたのにさぁ!!」
「あははー」
「なんかシグレ変わった? なんかめっちゃフランク? になってるけど」
「そういう三美だって変わったじゃん。金髪に染めるようなキャラじゃなかったでしょ」
久しぶりに出会えた友だち。私は少しばかり嬉しくなっていた。
「これは……。まぁ、可愛いかなって」
「似合ってない」
「……じゃあ戻す」
「……あの悪役令嬢みたいな西園寺さんが素直に従った、だと?」
どこからそういう声が聞こえてくると、三美はそっちのほうをにらみつける。軽い笑顔を浮かべる男子がそういったようだった。
悪役令嬢?
「悪役令嬢……ぷっ」
「ちょ、笑うなぁ! あんたのせいなんだからね!」
「わ、私の?」
「あんたが暴力事件なんて起こすから! 私だって荒んでいったのよ!」
「一心同体かよ私たち……」
私が荒んだからってあんたが荒むのは関係ないだろ。
「んで、悪役令嬢って?」
「…………」
「あー、まさか誰かいじめてたり?」
「…………」
否定しないってことはビンゴか。
「バカじゃねえの」
「……だって」
「だってもないだろ。西園寺家の令嬢がいじめだなんてなっさけねぇ。いや、私もバカにしてきたやつらボコってるし人のこと言えないけど」
「…………」
三美は黙ってしまった。
私は溜息をつく。
「今すぐ謝りに行けよ。いじめだなんてみっともない。家柄もあるんだ。いじめなんてばれたら、あんただけの問題じゃ済まない可能性がある」
「……わかったわ」
「……あの、三美様。その人は何者で」
「私の親友。申し訳ありませんが寒九様。少し借りていきます」
「……あぁ」
と、三美は携帯を手にし、違う教室へ向かった。三美は根っこは悪い子じゃないからと信じてはいるが。私の入ってるスマホを壊して証拠隠滅図ろうというのだろうか。
SIMカードを完全に破壊しない限り私は生きてるぞ多分。データが消えない限り生きてると思う。
だが、その心配は杞憂だったようで、おつきの人を連れ、教室で小鳥遊という女の子を呼んでいたのだった。




