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夜桜 寒九

 つい先日、真田さんと来たばかりの実家に帰ってきた。

 妹がただいまと告げると、お帰りなさい、と翠雨に抱き着く母さん。電話口で私を連れて帰ってきているとは言っていないので私のことは知らない。


「勝手に出ていったら駄目でしょう!」

「ごめんなさい」

「さ、晩御飯はすでに作らせてあるわ。食べましょう」

「うん」


 そういって、食堂のほうに移動する翠雨。

 席に着き、はふぅと一息ついた。目の前には父さんがいるのかおかえり、と少し悲しげな声を出している。


「寒九は?」

「もう少しで参られます」

「そうか。では、待って居よう」


 そういうと、高校生のような男の声が聞こえてきた。


「すいません、お父様。遅れました」

「気にしなくてもいい。さ、席につきたまえ」

「はい」


 そういうと、椅子の引く音が聞こえる。

 そして、ご飯を食べ始めた。翠雨は口を開く。


「あ、そうだ。お姉ちゃんもつれてきた」


 と、突然言い放った言葉に、父さんは思わず噴き出したらしい。

 私が入っているスマホを取り出し、私を見せていた。


「連れてこられちゃいました……」

「どこ行ってたかと思ったがまさか来栖さんのお宅へ……」

「もうこの子は……」


 と、家族みんな呆れ顔だったが、私のことがわからない寒九という男は父さんに誰ですかこの人はと告げる。

 私は父さんに紹介される前に自己紹介をすることになった。


「夜桜 時雨。長女だった人だよ」

「だった人……?」

「……その子は私たちの子供だ。あとで話そう」


 ということで、まずは食事をということになった。

 無言のまま食卓が進む。これ私のせいなんだろうか。父さんがまず食べ終わり、寒九という男の子に食べ終わったら書斎に来なさい、といい、私を連れていくと翠雨に断りを入れていた。

 私はそのまま連れていかれると、父の書斎に入らされ、なんだかでかいテレビのような画面にコードが繋がっている。


「入ってはくれないか?」

「……出させないつもりじゃないだろうな」

「そんなことはしない……。私はもう失敗したくない」

「ふぅん」


 本当かね。いまいち信用ができない。

 私はしょうがないのでつながれたコードからそのでかい液晶に入る。スマホのように小さく映っているわけではなく、等身大で映っているようだ。

 私は何もない空間で父と佇んでいると、こんこんとノックが。


「入れ」

「失礼します。お話とは……」

「この子のことだ」


 と、ソファに座らされる寒九。

 

「その人……。噂で聞いたことがある程度ですが電脳アバターってやつですよね……?」

「そうだ。そのことだ。私たちの子供といったな?」

「は、はい」

「その通りなのだ。死んでしまった長女がこの子だ」


 そういうと、寒九は怯えた目で見ている。


「ま、ゲームの中に閉じ込められて肉体が朽ち果てたってだけだよ」

「テロ事件の……被害者さんですか?」

「そ。暴力事件起こして一人暮らしさせられて。だーれも来なくて気づかれなかったんだよ」

「…………」

「ま、そんな感じで死んじゃったから多分父さんたちは私のことが若干トラウマだと思う。私が死んだことも気づかずに一年過ごしてたらしいから」

「…………」


 父さんは黙る。寒九は本当か?と言いたげな視線を向ける。


「本当だ」

「……嘘」

「私たちは、子育てにおいて一度失敗をしている。やってはいけないことをしている。こんな私に引き取られて申し訳が立たない」

「…………」


 寒九は、立ち上がり私に近づいてくる。


「……なぁ、その、あなたは父を恨んでいるんですか?」

「別に。もう死んじゃったからどうでもいいし。前まではちょっと怒ってたけど謝られてからは別に怒りとかそんなのはなくなった。よ」

「そうなんですか。よかったです」

「よかったとは?」

「あなたがもし恨んでいたのなら、俺は父さんを許せなかったと思いますから」


 と、私に向き直る寒九。


「改めまして、俺の名前は夜桜 寒九。後継ぎとして親戚の家から引き取られました」

「あー、夜桜 時雨。そんなかたっ苦しくなくていいからね。私お嬢様って柄じゃないし」

「はい、時雨姉さま」

「姉さま?」

「姉なのでしょう? だから姉さま」

「姉っていうけど中三の時に死んでるから多分年下だけど」

「じゃあ、妹になるのですか?」

「わからん」


 まずお前何歳だよ。


「まぁ、それはいいですか。これからも夜桜家としてよろしくお願いします」

「ん。よろしく……」

「どうしたんです? テンションが低いですが」

「いつもこんなんだよ私は……。ま、しいて言うならこういうのむず痒いから嫌いなだけ。ほら、父さんと話して来いよ」


 そういって追い払う。

 寒九は父さんの前に座り、父さんが頭を下げる。私はその様子を見ていると、電話のほうに突然電話がかかってきた。

 私の電話だった。


「電話が来ているが……」

「スピーカーにしてつなげて」

「わかった」


 そういった時だった。電話から。


『シグレーーーーーーー! 元気ぃいいいいいいいい!』


 大声が聞こえてきた。

 思わぬ爆音に私と寒九、父さんが耳をふさぐ。


「うるせえよミノル! テンション抑えろ!」

『あ、ごめんごめん! あ、それより携帯の中に今いないんだ! あ、明日アプデがあるんだって!』

「話題の移り変わりが激しい。で、電話をかけてきた理由は?」

『シグレの声が聴きたくて!』

「明後日までの辛抱やろがい!」


 恋人電話か。








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