妹、来襲
私は王騎士の詰所から出てくる。
説教だけで済んだのはいい方か。本来ならば器物損壊でものすごい請求が来るが、私の功績が功績ということで見逃してくれた。
すまないね。出費増やして。
「それにしても、この青い硬い塊はなんだろな」
私はそのでかい鉱石を背中に背負いながら歩く。そして、リンドウの工房に入り、ズドンとその鉱石を置いた。
リンドウたちは帰ってきてないらしく、私は連絡を入れる。
「す、すっげー……」
「いやぁ、見つけた見つけた」
「どこにあったんですか?」
「んー、結論から言うとこれはエミィがいないと見つからなかったものといえばいいかな」
これは特定の人物が必要だった場所なのだろう。私は運良くエミィと知り合いになっていたから付き合えたわけで、エミィと知り合いになっていないと見つからなかった可能性が高い。
「これ、オリハルコン……だ」
「マジで?」
「こんな最初の街みたいな難易度のところでオリハルコンが出るなんて……」
「加工できる?」
「まだそのレベルまでは達してないから……」
無理か。
私たちがそう話していると、突然、運営からメッセージが届いた。私たちは開いて内容を読んでみる。
「明日一日、大型アップデートを実施いたします。明日の午前4時から明後日の午前4時までアンリミテッドワールドをプレイしていただくことは不可能となります。大変申し訳ありませんがご了承ください……だってさ」
「アプデか。何気に初めてじゃねえか? サイレント修正みたいなのはあったが、こういう告知されるアプデは」
「そうですね。僕の記憶が確かならそういう記憶はないですね……」
「私もないし初めてだよ」
つまり、一日アプデに費やさないと出来ない何かが追加されたりするんだろうな。
それか、サーバー強化かどちらにせよ、こういうアプデは基本いいもの。
「明日は平日だし基本は会社とか学校とかある人が多いからってことだろうけど……」
「俺明日も会社休みなんだよな。有休消化しろって言われたからしてるし」
「僕も明日も創立記念日ってことで休み……」
「私はそもそも学校とかいかないし」
「……不登校か?」
「仕方ないよねシグレさんは……」
事情、ソードは知らないもんな。
「明日誰も予定ないのかよ」
「明日は暇な一日になりそー……」
そうだな。ま、私の場合はミノルが連れていきそうだけど。
「ま、とりあえず今日はログアウトするわ。まだ昼だけどミノルが……フレンドが煩いし」
「わかった。お疲れさん」
「お疲れー」
私はログアウトしようと宿に向かい、ログアウトすると。
なんだか、目の前に黒髪ロングの女の子が立っていた。
「お姉ちゃぁん……」
「なぜいるんだ妹よ」
「遊びにきたよ……。ミノルさんも快く出迎えてくれたの……」
「迎えてないし! 怖いからあっちいけって言ったらおかーさんに怒られて入れさせられただけだしっ!」
友達だと思われたんだろうなあ。
私はため息をつく。
「あのさあ、翠雨。お姉ちゃん、急に押しかけてきて喜ぶと思ったか?」
「うっ……でも、お姉ちゃんに会えないと私……」
「こんな体にしたのはお前の両親が原因だから恨んでおけよ。会えないからと言って押しかけてくるのも迷惑だ。ミノルに謝りなさい」
「ごめんなさい」
「いーけど……」
素直に謝るところは偉いんだけどな。
「気が向いたらミノルに言って会いにいくから。大人しく家で勉強とかしてなさい。お前は私より出来がいいんだから」
「お姉ちゃんだって……」
「私は出来が良くないからこうなってんの。私が好きなのは勝手だが私みたいにはなるなよ」
私はそう言ってミノルを呼ぶ。ミノルは翠雨の手からスマホを取り返した。
翠雨はただひたすらその場に立ち尽くしている。
「ま、明日だけは暇だから家に行って話でもしてやるよ。それでいいだろ」
「えー、行っちゃうのー?」
「可哀想だからな。それに、ニュースで見たが……養子を一人迎えたんだって?」
「知ってるんだ……」
「まあ、自分ちのことだからな。男だろ? 父さんは跡継ぎにするつもりなんだろ。名前は聞いたことなかったし私と面識がないから、一応顔合わせする必要もあるだろうしな」
「……シグレ、いいとこのお嬢様っぽい」
「ぽいじゃなくてお嬢様だよ」
本当はな。
「ま、今となっては私も反省してるし、謝るかな……。父さんたちは本来私を後継ぎにしようとしてたっぽいし」
それか、その後継ぎ候補と結婚させる予定だったか。どちらにもそれなりの礼儀は必要だし、教養もいる。そのために厳しくしてたんだろう。
ま、一度も様子を尋ねて来なかったこととは別の話だけど。
「よくわかるね……。私の方が期待されてたこと知ってるくせに」
「学業の面とかだろ? お前は性格上当主に向いてない。実際、甘やかされすぎてるだろお前。そういう教育の悪さも理解はしてるだろうよ……。そうでないとタダのうつけもので笑われもんだ。……ま、私のせいで笑われてはいるだろうけど」
あれ以降社交の場に出ることがなくなったからな。楽だと言えばいいんだが、周囲の失望はとんでもないものだったよ。
今はどうなってるか知らないけど。
「じゃあ早速帰ろう。今日は無断で来たんだー」
「……はいはい。充電器持ってけよ。充電今そこまでないからモバイルバッテリーに繋いでだな」
「わかった」
妹の翠雨はウキウキとしてモバイルバッテリーと私をポケットの中に入れる。
「今、お母さんたちが私を必死になって探してると思う」
「電話来てないのかよ」
「マナーモードにしてる」
するなよ。
「せめて大ごとにならないうちに電話かけ直せ……」
「わかった」
ったく。世話が焼ける。




