くえすと、ありませんでした!
この状況下で受けるクエストは本当に少ない。
ミコトはクエストがなく、ただただプレイヤーが運営する喫茶店でぐでーっと伸びていた。しくしくと涙を流している。
「ないよ……クエストないよ……」
「この状況だし頼みたいことはあれど頼れないって感じなんだろうな」
「この僕が受けようといっているのに……」
と、嘆いていると。
横の席の女子がおもむろにこちらに近寄ってきた。
「あ、あの、あなたもしかして……女優の椎名 尊ですかっ!?」
「そうだよぉ……。僕はなんて役立たず……」
「きゃああああ! サインください!」
と、その女性はそのミコトにサインを求めていた。ミコトもその言葉を聞いて正気に戻ったみたいで、僕のファンかい? ありがとう!と握手していた。
サインはゲームということで残らないから復帰した際にはサイン会をひらくと約束している。そんな簡単に約束していいのか?
すると、周りの人も椎名 尊の名前を聞いて、こちらに近づいてくる。
「すげー、本物だ!」
「芸能人もゲームやるんだなー!」
「ああ、人気者はつらいね……」
「うるさい」
ここまで騒がれるとこいつが調子乗るからやめてほしいんだけど。
「ああ、あの、コーヒーをお持ちいたしました……」
「ありがとう」
と、女性店員の手をとってお礼を言うと、女性店員はきゅうんとメスの顔になる。こいつも女だぞ。何惚れてんだ。
それにしても、ミコトって。
「ミコトってこんな人気あったんだ」
「失礼だね。僕は人気者なのさ……。僕になびかない君がおかしいだけだよ」
「正常だと思うんですけど」
「あ、あの、ミコトさま。こちらの女性はお友達ですかっ」
「そうだよ。美しいだろう?」
「おいこら。てめえ何言いやがるんだおい」
周りの客が私のほうを見てくる。私は自分で言うのもなんだが、そこそこ顔は整っているほうだと思っている。そりゃ不死帝家のイケメンの血も少し混じっているし。
だけど性格が自分で言うのもあれだけどきつい。
「本当ですねぇ……」
「お、おい。なにうっとりしてんの?」
「女優の仲間はやっぱきれいなんだな……」
「…………」
「静かにしてもらえるかい? 僕の友達は騒がしいの苦手なものでね……」
「そんなところも……」
うるさいっての。
私は溜息をつく。
「もうミコトと一緒に行動したくないんだけど……」
「ええっ!?」
こいつと一緒にいるとマジで騒がれるじゃん。
私は運ばれてきたコーヒーを口にしようとすると。
「シグレーーーーー!」
「わぷっ」
横から超高速で抱き着いてきた物体。私は思わず押し倒される。
「一日ぶりーーーーーーーー!」
「ミノル……!」
「百合だ……」
「てぇてぇな」
病院から帰ってきたであろうミノルが思いっきり抱き着いてきたのだった。私はそのまま顔を伏せる。もうやだこいつら。
騒がしすぎるだろ……。
「やぁミノル君。ケガは大丈夫かい?」
「だいじょーぶ! 包帯も巻いたし、ギプスもつけてる!」
「ならよかった。災難だったね」
「でしょー? でもきょーミコトもいるんだね! サボり?」
「臨時休校になったのさ。あまりにも欠席者が多いからね」
「現実でも流行病あるのかね……」
「わからないが……。ま、そうだとしてもかからないよう気を付けないとね。それで、これからどうするんだい? 外に出られずクエストもないとなると……やることはそこまでないが」
「私はフレンドのところにお邪魔する……」
「えー、シグレ私たち以外のフレンドいるの!?」
なんだよお前ら以外友達いないっていうような言い方は。
「いるっての……。お前らもいるだろ」
「まぁ、いないことはないが」
「私いないけどっ!」
「お前もうちょいほかのやつとも話せ。コミュ力はバケモン級にあるだろ」
「シグレといるほうが楽しーしいいかなーって思ってさ!」
「お前はもうちょい人脈を増やせ……」
私たちが頼れなかったらお前どうするんだよ。




