擦れた過去 ②
この街にやってきて、電気屋のテレビが目に入っていた。
『新しく発売されるVRMMO、ファンタジスタオンライン!』
その広告を見て、昔の私はゲームか、と呟いていた。
自分のスマホでソーシャルゲームはやっているのだが、VRというものには手を出したことがない。私はソシャゲで、ミノムッチというプレイヤーネームの人とVRについて話した。
『おー、そういえば私の住む街に引っ越してきたんだよね! 今度会わん?』
『話の脈絡おかしいぞ。私はVRについて聞いたんだが』
『それは実際会ってから離せばいーじゃん!』
『わかった。今山崎電気屋っていう店の前にいる』
『りょ! むかう!』
と、昔の私はミノルの誤字にもつっこんでいない。それほど親しくなかったんだろうな。
そして、待っているとミノルがやってくる。
「おまたー!」
「驚いた。男だと思ってたんだけど」
「えー!?」
「なんかいかにもって感じの文だったし男だと思って会話してたけど女だったんだ」
「ひどー! あ、うち来栖 実っていうんだー! よろたんうぇーい!」
「夜桜 時雨。よろしく」
「シグレねー! で、話はVR? それ流行りだよねー! やるっきゃないっしょ!」
「そう」
「もちろんシグレもやろね!」
と、そういわれて一日中ミノルに付き合っていた。
そして少し時間がたつ。私がゲームにログインしていた時だった。ミノルがちょっと疲れたからログアウトーとか言い出した時。
「あれ、うちの見間違いかなー? ログアウトボタンがないぞっ」
「ん?」
「シグレも確認してみ!」
そういって、私自身もゲームでボタンを確認したがログアウトできず。
二人の頭にはてなが浮かんでいた。オプションとか開いてみるけれどなにもなく、ミノルはずっとはてなを浮かべていて、私は嫌な予感を感じ取っていたのか、焦った表情をしている。そして、おもむろに昔の私は口を開いた。
「これって……閉じ込められたんじゃね?」
「うそ!? でも、そんなことする理由ないじゃん!」
そういっていると突然画面が目の前に浮かんでいた。その映像はテロリストによる犯行声明。自らの要求を飲まない限り、私たちを人質にとったままということ。
私たちはテロリストの人質にされてしまったようだった。永遠に外に出られない。
「……まじで!? 一生ゲームできるじゃん!」
「バカ! 現実の体はどうなるんだよ!」
「え?」
「こっちでなんともなくてもあっちは時間が経つんだ! 体のほうに栄養がいきわたらなくなるし、腐敗して体がなくなるぞ! その場合私たちはどうなるんだ!」
「あ」
ミノルも重要性に気づいたのか慌て始める。
周りもその事実に気づいた人たちは慌てていた。そりゃそうだ。死ぬのだから。
「周りが気付いて病院とかで点滴とか延命措置とってくれたらいいんだけどよ……」
「ならうちは大丈夫かも! お母さんとかに言ってるしテロリストの犯行声明とか見たら気づいてくれるはず……」
「そっか。なら安心だな」
その時の私は自分のことに気づいていた。にもかかわらず、それを思い出さないようにとしているようだった。
昔の私の頭の中には、もしかしたら自分は助からないと気づいていたはずなんじゃないだろうか。その事実を認めたくなくて、思い出さないようにして。
「バカじゃん。昔の私は」
いつごろ私には気づいてくれる人なんていないと気づいたんだろう。いつから自分は愚かなのだと自覚したのだろう。
「気づけよバカ。今のお前には気づいてくれる人なんていないくせに」
昔の私に現実を突きつけたくてしょうがない。気づいてもらえなくて今の私はこんな姿なんだぞと告げたい。
ムカつく。なんで今私はこんな昔の記憶を見ているのだろう。




