擦れた過去 ①
携帯も買い終え、私の携帯の中に無理やり転送される。
ひゅんっと瞬間移動のように移動したのは少し気持ちがよかった。ミノルはパソコンを起動し、コードを私のスマホとつなげる。
「っしゃあ~。やるかー!」
「ごめんな」
「気にしないの! うちが悪いしねー。ただデータはこのパソコンに残ってるしアバターの体だけ作り直せばいいって感じだから一日で終わるよ。ただ、シグレの意識あるうちは出来ないから……。悪いんだけどちょっとだけ強制的に眠っててもらうね」
「わかった」
私の意識があるうちは出来ないんだろう。
私はそれまで眠っているとしようか。私の意識がどんどん混濁していく。深い沼に落ちたような感覚。これは一時的な死なのかもしれない。
私の意識は沼に沈み、そのまま、幻覚を見る。
私が今いるのは学校だった。
昔の思い出。上品な学校といえばいいのだろうか。丁寧な言葉で話し、綺麗な服で身を包む。居心地の悪い世界。
私もお嬢様だったんだよな……。この時も。
「ねぇ、夜桜様。本日の放課後遊びにいかなくて?」
「え? あー、私はいい……いいです。勉強しなくてはならないので」
「そう……」
そういって、再びノートを開く私の子供の姿。
持っているシャープペンシルが少し震えている。遊びたかったんだろうな……。親に少しでも認められたい、誉められたいという気持ちでたくさん頑張ってきた。
報われはしなかったけれど。
「……私は絶対に認められてやるんだ」
と、燃えている。
昔の私に言いたいことはたくさんある。だが、もう言えない。アドバイスだって言えない。君の未来は暗いとか、君は落ちぶれるとかそんなことも。
今の私は嫌なものを見ないために目をふさいで生きている。
「今度のテスト、100点取ったら褒めてくれるかな」
褒められたい。私の原動力がそれだった。いつから諦められたのかはもうすでに忘れてしまった。
私が思い出していると、急に月日が流れていた。中学三年生の時の思い出のようだった。すっかりあらぶっており、教室の廊下で私は男の子二人が伸びている中、ぽつんと立っていた。
「何事ですか!」
「あー、先生」
けだるそうに私は振り返っていた。
「竹原くん、正田くん……? 夜桜さん、どういうことですか」
「見たとおりでしょ」
私は制服についた二人の返り血を見せる。
「こ、このことは親にも報告いたしますよ!」
「いいよ。あの人たちはどうせ私に期待なんかしてないだろうし、あの家から出られるなら万々歳……」
「今の私が言うのもなんだがほんとスレてんな」
痛々しい過去、かもしれない。
そして、親がやってきて、必死に頭を下げている。あちらの親御さんも事情を私に聞いていたが、私は何も答えない。
そして、私は普通の高校に行け、いい大学に進学できると思うな、一人暮らしして落ち着けといわれていた。
そして、この街にきた。




