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ゆっくりシグレ

 ウイルスの侵攻は進んでいく。もうスマホの大半が紫色に染まってきていて、私も、少し触れてしまい、片足など失っていた。

 もう限界が近い。ミノルは必死こいて除去作業をしているが……。


「マジこのウイルス強力すぎっしょ! シグレ、なんかエッチなサイトとか開いたん!?」

「いや、開いた記憶はない……」

「だよねぇ! シグレはそんな性格じゃないもんねぇ! とりあえずシグレを死なせないためには違う媒体を用意するしかないし! ちょお弟のスマホ借りてくる!」


 そういって出ていくミノル。

 片足も失い、割と不自由になった今、取り残されると超まずい。すると、ミノルがスマホを手にして戻ってきた。コードをつなぎ、ドアが現れる。

 だがしかし、そのドアまでは少し遠かった。


「……なぁ、ミノル。私って生首だけでも生きていける?」

「全部が消えなければ修復は出来ると思うし……」


 消えるまで少しラグがある。ということは……。駆け抜けていくしかないか。私は全力で突っ走る。私の足、胴体が消え、扉に手をかけた時には腕ぐらいしかなく、ドアを開け、私の胴体も消え、首がごろごろと転がる。

 

 ミノルは弟さんのスマホに入ったことを確認するとすぐにコードを抜いていた。


「ふぅ」

「ゆっくりシグレだし!」

「だれがゆっくりだ」


 生首だけとなった私。割とホラーだ。


「うちのスマホは完全にウイルスに侵食されてるし……。おふざけ程度のウイルスだったら可愛げがあったんだけど……。これはデータが全部壊れるやつ……。うちのスマホは買い直しだし……。なんでこうなったんだろ……」

「前にミノルが何か触ってたか? 私のゲーム最中に」

「あ、迷惑メールで貼られてたURLを間違って踏んだのはあったけど……。もしかしてそれなん!?」

「それだ」


 迷惑メールにはこういうのもあるから厄介なんだ。


「じゃあうちのせいかー。マジめんご! 今からシグレのデータ作り直すし」

「頼むよ。こういう生首の状態だとどうもな……」

「生首シグレも可愛いし! でもその状態だとゲームできないと思う。それと、データ作るのもすぐにはできないし……。三日ぐらい我慢してほしいし。うちのスマホも買いにいかなきゃいけないのもあるからね!」

「姉さん、スマホそろそろ返してよ」

「あ、幹也ー。今日一日借りるし」

「はぁ?」

「その、うちのスマホ……ウイルスでやられちゃって。シグレの依り代がないっていうか……」

「……わあったよ。明日買いに行けよスマホ」

「助かるし!」


 そういうので、私は今日一日弟君のスマホの中で過ごすこととなった。

 生首状態なので動くこともままならない。一応ごろごろ転がれるが、目が回りそうだ。


「じゃ、おやすみだし!」

「おやすみ……」


 もう夜遅い。ミノルは部屋の電気を消して眠りについた。

 私は今日の出来事が忘れられず、眠れない。自分で死を感じると、ああも恐怖にさいなまれるんだなと改めて自覚出来た。

 私はそうこう考えていると、日が昇る。


 午前九時。ミノルはがばっとベッドから起き上がる。


「おはよーだしーーーーー!」

「朝から元気な奴……。おはよう」

「シグレおはよーーーー! さ、買いにいこ! お金ないからお母さんから借りて!」

「携帯バカ高いもんな……。ま、携帯かったら私の家に行けよ。私が死にかけて携帯買い替えることになったって言ったら借りれると思う」

「それ騙してるみたいでいやだし!」

「死にかかったのは事実だろ」


 ま、ミノルが嫌だっていうんならこれ以上言わないけど。

 ミノルは下に降りていき、携帯を買いたいと告げると。


「ならシグレちゃんが入る用とミノル用のスマホ二つ買いましょ?」

「いいの!?」

「ええ。ミノルが間違って踏んだのがいけないのでしょ? そのせいで死にかかったら嫌だものねぇ。お父さんには私が言っておくから」

「やったぁ!」

「いいんですか?」

「いいのいいの。ただ、あなたの携帯で死にかかってもそれは自分のせいよ?」

「わかってますけど……」


 私の分を買い与えてくれてもいいんですか?


「その、本当にいいんですか?」

「いいのよ。シグレちゃんと出会ってミノルは毎日楽しそうにしてるんだからそのお礼」

「……っす」

「さっそくいきましょー! おかーさーん!」

「はいはい。あの子、行動力は父さん似ねぇ」


 ミノルの行動力は父譲りらしい。

 











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