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神に頼れ

 蛇がマッキンリー山にいるのだという情報が入ったが、私たちは外に出られないので討伐のしようがない。いや、私は向かえるっちゃ向かえるんだけどね。

 そして、その情報があり、一週間が経過した。一週間も経つの街の様子もだいぶ変わってきており、どんよりとした、どこか重苦しい雰囲気が漂っている。


「ちくしょう……。閉じ込められてたら頭がどうにかなっちまうよォ……」

「王都にある食糧だって限りあるわよね……」


 閉じ込められている不安、それは時に危うい存在となる。

 窮地に陥ると人間は何をしでかすかわかったものじゃない。もちろん食糧は運ばれてきてはいるが、それでも供給量は少ない。

 数千人単位ならまだしも、王都という人口が多い街、且つ病人が多いという最悪な状況でもある。


「……しょうがないか」


 私は噴水広場の前に立つ。

 この状況でやることは暴動を防ぐこと。となると、ここは人々が頼るものが必要なのだ。


「いいか、皆の者! 聞くがいい! 私は神の使いである!」


 私は大声を上げると、道行く人や、家の窓から身を乗り出し私の演説を聞いてきた。私は緊張する心を何とか抑えながら、演説を続ける。


「この封鎖によって精神がやんでしまうのも理解する! だが、その安易な考えで過ちを犯すことはどうかしないでくれ! この病は神様がどうにかしてくれるだろう!」

「どうにかって……」

「よからぬことを考えるものは神に願え! この状況を打破したいのなら神に願え! 最終的にあなた方を救うのは国でも王でもなく、神である!」


 我々には神頼みしか残っていない。

 だからこそこうやって民衆を煽るしかない。神頼みするしかない状況を作り出す。自分たちの手で打破しようとさせない。

 自分たちの手でやらせてしまったらそれこそ終わりだ。

 だがしかし、神様っていうだけで曖昧すぎる。これでは説得力というか、つっこまれるか。


「えっと……。神であるアルテノス様の名のもとに! このアルテノス様の使いである天使シグレが宣言する!」

「アルテノス様……!」


 私は天使の羽を広げ、自らを見せびらかす。

 私が天使であるということは神の使いであるということにも説得力を持たせるのだ。私が演説していると、ルグレスさんが率いる王騎士が私を囲む。


「なにをしているのだ!」

「……話はあとで。さぁ、皆の者! どうか静まってアルテノス様に願うのだ!」

「来い!」


 と、私は引きずり降ろされ、そのまま詰め所まで運ばれたのだった。



 ルグレスさんははぁと溜息をつく。


「なぜあんなことを?」

「そりゃ……下手に暴動を起こさせないためですけど」

「暴動?」

「団長……。人がずっと箱の中に閉じ込められたら出ようとするでしょう? それと同じですよ」

「なるほど」


 このままいくと遅かれ早かれ少なからずとも暴動は起きていたはずだ。

 民衆が武器を持ち王城に駆け込み外に出せというのは目に見えていた。だからこそそれを少しでも遅延すべきだった。


「お疲れ様です。汚れ仕事のような感じですがすいません」

「いいですよ。天使である私はそういうのにうってつけでしょ?」


 この純白の天使の羽は証明になる。


「どれだけ遅延できるかはわかりませんが、定期的にこの演説を続けてやれるところまで遅延するので、それまでにどうか決着をつけてほしいんですよ」

「……わかったのである」

「もって……一か月くらいでしょうか。それまでに原因を潰して、この感染症に終わりをもたらせないと駄目なようです」

「むぅ……」


 一か月で解決できたらいいんだけどな……。









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