どMオタサーの姫
豆腐料理で満足し、店の外に出てゴエモンたちと別れる。
外を闊歩していると、なにやら大量の集団が目の前を歩いてきていた。男の人数人に女性の人一人。女性のほうはなんだかぶりっ子のような感じでものすごく気持ち悪い。
「うわ……なにあれ」
あれまるでオタサーの姫とその囲いじゃないかよ。きっもちわりぃ。ゲームするのは自由だけどゲーム内でもあんな姫みたいなやつがいるのかよ。
私はなるべくかかわりたくないので、そのまま通り過ぎようとすると。
「ねぇ、そこのあなたー!」
と、なんだか可愛らしく誰かを呼んでいる。私じゃないはずだ。私は声のほうを向くと、ばっちりと目が合い、その女性は嬉しそうに笑う。
やばい、目を合わせたらだめだとわかっていたはずなのに。
面倒くせえ。
「あなた、いい装備してますね! それどこで手に入れたんですか?」
「……この装備はイベントで手に入れたものなので私一人だけのものですけど」
「そうなんですか! あの、譲ってもらえたりしません?」
「……は?」
何言ってるんだこいつは。
譲る? バカを言うなよ。
「嫌ですけど」
「えー、お願いしますぅー」
「まずそれが人にものを頼む態度ではないだろ」
私は女の手を振り払い、詰め寄る。
「交換条件も提示しない、それってただでよこせってことだよな? そんなぶりっ子みたいにねだっても無理に決まってんだろ。そこの後ろにいるちょろい男どもには有効かもしれないけど同性の私たちには通じるわけないだろ。お前の可愛さが世界共通認識だと思うなよ」
「えっ、えっ?」
「アリアたんを悪く言うなー!」
「うるせえ黙ってろ」
こういうオタサーの姫は基本甘やかされている。
こういう絵にかいたようなやつってなかなかいないけどな。もしも絵にかいたようなものだったら本物のやばいやつだろう。
「望むものが何でも手に入るとかどんな甘ったれたお嬢様だよ。そんな箱入り娘はゲームなんかやってないでちょろいオタサーの中で永遠と籠の中の姫様でもやってろ」
「な、な……」
「わかったんならどっか行け。私はお前のようなやつは嫌い……」
「……お姉さまぁ」
「……嫌いなんだけど、なんか様子おかしいな」
私は女のほうを見ると、よだれ誑して恍惚とした表情を浮かべている。
「すいませんが私をなじるのをもう一度……」
「……ばーか?」
「あふぅん!」
あ、こいつやばいやつだ。
ここまでやばいやつだった。
「私はきっと……あなたに出会うために」
「……それじゃあ」
「ちょ、待ってくださいお姉さま」
「あ、アリアたん?」
「それじゃ!」
私は全力で走りだす。すると、アリアという女も追いかけてきた。
「私はあなたのようにオタサーの姫であることを罵倒してくる人を待っていたのです! きしょいオタサーの姫を演じていればあなたのように嫌悪感を向けられると!」
「やばいやばい! 怒ったのは逆効果かよちくしょう!」
あいつあれだ。マゾだ。なじられて喜ぶタイプだ。ああいうタイプは怒ったって無意味だ。なんでオタサーの姫をやっているのか。それは私のように女性から嫌悪感を向けてもらいたかったから。なんて馬鹿げた女だよ!
「あなたには私をなじる才能があります! ぜひぜひ!」
「そんな才能いらねえよ! ちょ、ミノルでもいいから助けてくれ!」
やだやだやだこいつ。普通に怖いんだけど!
「シグレー!」
と、聞きなれた声が聞こえた時、後ろからあはぁん!という気色悪い声が聞こえてきたのだった。振り返ると、そのアリアという女が恍惚とした表情で気絶の状態異常。そして、その前にはミノルがいたのだった。
「追いかけられてたけどなにしてたのー?」
「ミノル……!」
お前はやっぱり救世主だよ。




