ショッピングモールにて ①
死んでしまったので10分間のログイン制限を食らった。
私はスマホの中に強制的に戻される。
「はあ。また死んだ」
「はっはっはっ! こういう時もあるさ! 前を向いて行こう!」
「おわっ、椎名 尊。まじで転校してきてたの?」
「そーだよー! 現実でも超かっこいい!」
「はっはっはっ」
自信満々な高笑いだ。
「それにしても、話には聞いていたがスマホの中にシグレくんがいるんだね? フルネームはなんでいうんだい?」
「夜桜 時雨」
「ほう、実に素晴らしくかっこいい名前だ!」
名前だけはかっこいいんだよ私は。それ以外はカッコ悪いけど。
「夜の桜は美しいからね! 君の名字は実に美しい!」
「どうも」
「夜の桜が時の雨に打たれゆく……なんとも風流な名前だ」
「…………」
こういう性格かあ。
「ミノルさんとシグレさんとはいい友達になれそうだ」
「そりゃどうも……。というか、質問」
「なんだい?」
「女優業はなんで今休止してんの?」
「ああ、そのことか。実は私は勉強がてんで出来なくてね……。学業に集中しなければ留年なんだ。だからそのためかな」
「うわぁ」
仕事にかまけて学業を疎かにした感じか。
「私も電脳世界に行けば勉強なんて……」
「バカじゃないの?」
「うん……」
「私は好きでこうなったわけじゃないし羨ましがるな」
私は死にたくて死んだわけじゃない。
気づいて欲しかった。誰も私に気づかなかった。だから死んだ。だからここにいる。
こいつ……。ムカつくな。
「お前は気づいてくれる人がいるくせにそういうなよ。私は……」
「はいはーい、暗い話はおしまい、ね? 明るくいこーよ! みんな暇でしょ? うち服買いたいから付き合ってー!」
「お前小遣いピンチとか言ってなかったか?」
「そこは……隣に稼いでる大女優がいるから……」
「たかるなよ」
「はっはっはっ。いいだろう、親交を深めるために貢ごうではないか!」
「いいのかよ」
「金は余るほどあるからね! 大女優を舐めないで頂きたいっ!」
こいつもしかして金を湯水の如く使うタイプ? 知ってるか? 金は命より重いんだぞ。
私が生きてる頃なんかバイトで必死こいて稼いだってのに……。
「……ファッションか」
「シグレも服変えたいの?」
「そりゃな。一年前からこれだろ。私だって少しはイメチェンしたいぜ」
「できるよ?」
「出来んの?」
「プログラムを組めば……」
「それは必要なのね」
そりゃそうか。
「ミノルさんはプログラミング出来るのかい?」
「もち! それしかできん!」
「こいつ独学で学んで私のこの体作ったからな」
「へぇ……。頭いいのか」
「んにゃ、悪いぞ。学年最下位」
「えっへん」
「褒めてねえっての」
こいつ勉強は普段からしないからな。授業も居眠りしてばかりで私が教えないと留年する。実際去年がそうだった。私がコイツのスマホにいるから逃げることも出来ずにひたすら付き合わされたよ。
「とりま、いこいこ!」
「はいはい」
「ファッションなら僕も知りたいからね。共に行こう」
ということで私たちはショッピングモールへ足を運ぶ。
私たちの住む街には大型ショッピングモールのキュオンというものがある。
ゲームセンターやら何やらあるし、本屋もあるしということで割となんでも揃う。映画館も中にあったりする。私はもちろん見れない。映画館ではスマホの電源オフがマナーです。
「ふっくやっ、ふっくやっ」
「そうだ、私も下着を買いたいのだが」
「そうなの? じゃあ可愛い今時のを見繕ってあーげる!」
「ありがとう」
そんな会話をしながら歩いていると。
「あれ? 来栖さん」
「あ、山岸くんと辰くんだ! やっほー、なにしてんの?」
「俺らはゲーセンに……」
「そーなの? うちらは下着と服買いに!」
「バカ。服はともかく下着はいうな」
「あ、そだね! 忘れて!」
忘れられるわけないと思うけれど。
「あ、夜桜さんもいるんだ」
「連れてきたし!」
「久しぶりだな」
「そうだね……」
画面越しに見える二人の顔。気弱そうな男とヤンキーみたいな男。これでも仲良いんだから不思議だ。
ヤンキーなんか口ピアスと耳ピアスしてるし金髪だし。目つきも鋭いし。
「やっぱ夜桜っていつ見てもギャルだな」
「そう?」
「マジで現代っ子って感じだ」
「そらそうよ。こちとら現代っ子よ」
「でも割と大人だよね。僕たちの同年代と比べて」
「精神力がつえーっての?」
「スタンド持ってるっしょ!?」
「持ってないわ」
なぜスタンドを持ってることになる。持ってるならとっくに使っとるわい。
「僕ならそこに閉じ込められるのは嫌だな……」
「そう? 精神と時の部屋みたいな感じだから割と楽よ」
「それ楽じゃねえよ」
私にとっては楽なんだけど。
空中だって泳げるし。
「……あ、そういえば知ってる? ここのショッピングモール、その夜桜さんの人のための場所もあるんだって。あの壁にあるプラグにスマホを差し込むとさ」
「壁?」
ミノルは差し込んでみると扉が現れる。
私はその扉に入ると、私より少し大きい辰たちの姿が。
私は生前の姿になっている。
「等身大で隣を歩けるんだよね」
「へぇ、考えたもんだな」
「等身大だぁ! へぶっ」
「ミノル。ここは一応モニターだから抱きつかないよ」
「いっつぅー……」
ミノルは顔を抑える。
「服屋の前とか途切れるところでプラグがあるからそこでスマホに戻るんだ」
「ふぅん」
「それじゃ、行こうぜ。じゃあな、お前ら」
「えーこないのー!?」
「ふふ、旅は道連れさ!」
「ええ……」
「長いだろお前ら」
うん。長い。




