結婚式まであと4日①
翌朝。
今日は用意された朝食を部屋で摂った。
セシルから朝食を一緒にどうかと誘われはしたが、丁重にお断りした。
なにせ後ろに居たエリからの視線は酷く冷たいものであったし、何よりこの2人と食事を共にしたいなど到底思えなかったからだ。
食事を終えた後、イレーナは今日もまた出かける支度を始めた。
そして時計の短い針が10を指した丁度の時、扉をノックする音が聞こえた。
「はーい」
そうイレーナは答えると、すぐ様扉を開けた。
扉の向こうに居たのはルカであり、昨日とは違い、今日は燕尾服に身を包んいる。
「おはよう、イレーナさん。支度は済んでるか?」
「おはよう、ルカくん。うん、支度はもう終わってるよ。行こっか」
そう言うとイレーナはリュックを背負う。
今日は2人とも屋敷の表から外へと出た。
その間、チラチラとメイド達の視線が2人に集まっていたが、気にしたら負けだと思い気付かないふりをした。
ルカから聞いた話だが、イレーナはセシルの客人……友人だと使用人達は認識しているらしい。けれど、中には元婚約者であったという事を知る者も居て……そんな極わずかの人間からだんだんと話は広がっていき、今では全使用人が認知しているらしい。
だからこそ、そんなイレーナが使用人であるルカと外へ出かけて行く姿を見て皆驚きを隠せないのだろう。
まぁ、ルカは使用人仲間たちには、学生時代の同級生で友人であることは把握してもらっているらしいのだが、やはり実際に目にしてみると感じるものもあるのかもしれない。
昨日も2人で王都巡りをしたものの、まだまだ見足りない箇所も多々あり今日もまたルカの案内の元、引き続き王都巡りをする事になった。
イレーナは早速雑貨屋へと立ち寄った。
可愛らしい猫や犬の置物やぬいぐるみ。きらびやかなアクセサリー。お揃いのマグカップ……などなど色々な雑貨で溢れたお店である。
浮き足立ってイレーナは店内を見て回る。
その中で何かを見つけたらしく、目を輝かせてその商品へと駆け寄る。
「これ、ヘレンに買っていこうかな」
そう言って手に取ったのはヘアゴムだった。
明るくて元気なヘレンを表すような向日葵の飾りのついたヘアゴム。
洋服のデザインは好きな彼女だが、自分の身なりにはあまり拘りが無いようで…。本人曰く『私に可愛いものは似合わないよ』との事だった。
前から絶対に似合うのに……と思っていたものの、無理に押し付けるのは良くないかなと1歩引いていた。
けれど、ヘレンはこの2年間、いつもイレーナの背中を押してくれた。支えてくれた。助けてくれた。沢山のモノを与えてもらった。
「…貰ってばかりじゃ駄目だよね」
見つめながら思わずそう呟けば
「せっかくならお揃いにしたらどうだ? そうしたら彼女も身に付けやすいんじゃないか?」
ルカの言葉にイレーナは確かに……と思う。けれど、ヘレンの様な明るくて可愛いらしい……まるで向日葵の様な存在な彼女だからこそ似合う様に感じる。
一方のイレーナはどうだろう。
向日葵が似合うような明るくて可愛らしい女の子では無い事なんて1番自分がよく知っている。
けど…
「俺はイレーナさんにも似合うと思う。向日葵」
(どうして……)
イレーナはルカを見つめる。
真っ直ぐと。大きく揺らぐ瞳。
(ルカくんはどうしていつも……私が欲しいと思う言葉をくれるんだろう)
イレーナはこくりと頷く。
そして意を決し、レジへと向かおうとしたその時だった。
「あれ? もしかして……イレーナ!?」
「…お姉……様?」
そこに居たのはイレーナの姉、エマの姿だった。




