結婚式まであと5日②
ルカおすすめの朝食セットがあるというカフェは、確かに絶品であった。
新鮮な野菜と目玉焼き、そして肉厚のベーコンが挟まれたパン。
そしてビタミンたっぷりの野菜とフルーツのスムージー。
お変わり自由。
何なら好きに具材を選び、サンドする事が出来るらしい。
「いや、本当にイレーナさんが一緒に来てくれて助かったよ。使用人仲間たちが皆口を揃えて美味いって話してたんだけど……どうしても来る勇気が出なかったんだ」
そう言って困ったように笑うルカ。
確かに周りは女性やカップルの客が多く、男性1人で訪れるにはやや勇気がいるように感じる。
そんなルカの言葉にイレーナは…
「けど、ルカくんのお誘いなら女の子は断らないと思うよ? ルカくん、優しくてかっこいいし」
と思いのまま告げた。
特に深い理由などはない。
ただ感じたまま、素直に告げたのだ。
あ、美味しい……とスムージーを1口飲み、思わず呟く。
一方で、そんなイレーナの言葉にルカは視線を逸らし、気恥しそうに「それは……ありがとう」と言葉を並べた。
イレーナが素直な気持ちでそう告げてくれているという事は、イレーナの性格をよく知るルカからしたら分かりきった事で…。だからこそ余計に気恥しさを感じていた。
「それにしても…本当に美味しいっ!」
「気に入ってくれたみたいだな」
「うん。だって凄く美味しいから!」
既に3つ目のパンに突入しているイレーナ。
今回はキャベツとポテトサラダを詰め込んだサンドを食している。
一方のルカは優雅にコーヒータイムである。
「あー、村の皆にも食べさせてあげたいなぁ…」
「持ち帰りも出来るみたいだが…」
「流石にもたないよね…」
猛暑…とまではいかないが、日に日に太陽の光はギラギラと照りだし、正午過ぎた頃は暑さを感じる様な季節になり始めた。
またあの地獄の猛暑の中で畑仕事をする日が来るのだと思うとゾッとする所はある。
けれど、そんな暑い季節の中で育てるからこそ美味しい野菜達もある訳で…。
けれど、またあの夏野菜達がたっぷり食べられる季節が来るんだと思えば、暑さも乗り越えられる気がした。
「ご飯食べたらどうする? 行きたいところとかあるなら案内をするが…」
「え、本当? 実は少し見ないうちに色々変わってるから気になってたんだよね」
王都を離れて2年。気づけばあらゆる物が変わっていた。
見慣れない建物も多く、そこまでじっくりと見られた訳でもないが、中には是非行きたい…!と惹かれる店も多くあった。
「じゃあ決まりだな。案内は任せてくれ」
そう言って笑うルカ。
釣られてイレーナも自然と笑みが零れた。
なんとも頼もしい案内人。
そして久々の友人との買い物に心が踊る。
「……ありがとう、ルカくん」
「イレーナさん?」
「今日、ご飯に誘ってくれたのって本当は私の為でしょ?」
ルカは、自分1人で行きづらいから。だからイレーナを誘った。
そう言っていた。
けれど、先程も言ったようにルカの誘いを断るような女性など居ないとイレーナは思う。
それにメイドの中には、ルカに歳の近そうな子も居た。仕事仲間と行くのも良いだろう。
「私が御屋敷に居づらい……って思ってるのを分かってくれて連れ出してくれたんだろうな…って本当は分かってたんだ。ルカくん優しいから、そうなんだろうな……って。あ! 勿論さっき言ったことも本当だからね!? えっと……だから、その……ありがとう。連れ出してくれて。私、凄く楽しいよ。今日は誘ってくれてありがとう」
昨日の食事会の件もあり、屋敷には居づらかった。まぁ…あの一件が無くても居づらいのには変わりは無かったのだが。
そんなイレーナの気持ちに気づいて、こうして外へと連れ出してくれたルカに感謝してもしきれなかった。
「別にお礼を言われる程の事なんてしてない。俺は本当にイレーナさんと此処で食事をしたかっただけなんだから」
「そう言って貰えて嬉しいな。けど……実際はどうなの? 本当に初めて来たの? ルカくんのお誘いなら女の子、皆着いて行っちゃいそうだけど」
なんて茶化すように尋ねてみる。
こんな風にルカを茶化す事も学生時代にも良くあったなー……なんて思っていると
「俺が一緒に食事がしたくて誘うような人、イレーナさんだけだから」
「えっ!?」
「ん? どうかしたのか、イレーナさん?」
そう言ってニッコリと微笑むルカ。
(や、やり返された…!!)
イレーナは顔に熱が溜まっていくのを感じながらそう心の中で叫ぶ。
やはり学生時代同様に、まだまだルカの方が1枚上手の様だ。
一方、2人が食事を楽しんでいる時、伯爵邸でイレーナの姿を探す人物が……セシルの姿がそこにはあった。
「イレーナが何処にいるか知らないか?」
「セシル様。イレーナ様なら早くに出掛けられましたよ」
「そうか…。ふむ。まぁ、イレーナに伝えるのは後々で問題ないだろう」
そう言い残すとセシルは外へと出る。
そして待たせていた馬車に乗り込むと言った。
「では、行こうか。子爵と夫人の所へ」




