結婚式まであと7日②
結論から言えば、特に何事も無く用意された客室へと向かうことが出来た。
そしてこれも全てルカのおかげだった。
メイド達がひそひそと部屋の片隅やらでイレーナを見ては何か話をしていた。
ひそひそ話程イレーナの緊張を高め、そして心を大きく揺さぶるものは無かった。
そんなイレーナに気づいたのか、それともたまたまなのか……ルカは客室までたわいも無い話をしながら案内してくれた。
その会話のおかげでコソコソ話や視線にも気にならなくなった。
「ルカくん、本当にありがとう」
「ん?何が?」
お礼を言えば本人は首を傾げて言った。
本当に無自覚だったのかもしれない。
けれど、それでも助かったのは本当で、だからもう一度「ありがとう」と告げた。
用意されていた客室は1人で利用するには勿体ない程広い。
豪勢なベッドや家具、シャンデリア。どれもこれも今のイレーナにとっては慣れないもので落ち着かない。
そわそわと部屋を見渡していると、コンコンと扉がノックされ、2人のメイドが姿を現した。
メイド達はぺこりと頭を下げると言った。
「本日より1週間、イレーナ様のお世話をさせて頂きます。どうぞよろしくお願い致します」
どうやらメイドまで手配されているらしい。
だが、イレーナは首を横に振った。
「私の様な者にお世話係など不要です。私はただの式典の参列者ですから」
「……だそうだ。それと、セシル様にイレーナ様の事は私に全て任せられているから、2人はもう下がっていいよ」
「はい。かしこまりました」
ルカの言葉に2人は頷くと部屋を後にして行った。
イレーナはへにゃりとソファーへと身を沈める。
そして「つ、疲れた……」とポロリと言葉を零した。
「まさかメイドまで手配されてるなんて…」
「イレーナさん。私の様な者……って言ってたけど。もしかして本当に貴族籍を剥奪されたのか?」
「……うん。ルカくんには話しておくね。体調不良なんて全くの嘘なの。両親は家の名に泥を塗った私に幻滅した。だから貴族籍を剥奪すると共に子爵家から追放したの。だから私も驚いた。セシルまで私が療養生活の為に村で生活を送っていると思ってたから…」
ただ家の名を汚す不要な子だから貴族籍を剥奪し追い出した……と言うのは聞こえが悪い。だから体調不良という偽りの理由を作り出し、その療養の為に家を出た……とすれば随分聞こえはいいものになる。
両親は間違いなくそれを狙ったのだろう。
「……確かに誰もがイレーナさんは体調不良でその療養のために学園を退学したと思ってる。現に俺もそうだった。イレーナさんとセシル様の婚約が破棄されていたと知ったのは使用人として就いた時だったし…。そしてセシル様の新しい婚約者の存在を知ったのもその時だ。セシル様はこう話してた。『実はイレーナの体調が悪化してね。婚約を破棄して欲しいと彼女に頼まれた』って」
「な、何それ…。私はそんな事言ってない! そもそも婚約破棄して来たのはセシルの方なのに…」
思わずグッと拳を強く握りしめた時だった。
コンコンコンと扉をノックする音。
そして
「イレーナさん。いらっしゃるかしら?」
柔らかで美しい、凛とした声がイレーナの名を呼んだのは。




