第42話 守れない約束
今からラストの4話を書いていきます。明日の2021年5月8日に全て投稿して完結できるはずです。完結できましたら、褒めていただけると嬉しいです。
燃えて、廃屋となった我が家に隣接して建てられた小屋。大量のゾンビから逃げ切ったオレたちは互いの無事に安堵しながら、会話をしはじめた。
「サイゾウ。すまない。アラクネが連れて行かれた」
そう言って、傲岸不遜なデミトンが珍しく謝罪をしてきた。
「デミトン、おまえの所為ではないだろ。気にするな」
彼がオレの立場であっても同様のことを言っただろう。こいつはできなかったことを敢えて責めるような男じゃない。
「そんな顔をしておいてよく言うよ。惚れていたんだろ?」
「ああ」
力なく頷くオレ。そんなオレにデミトンは自身の現状を伝えてきた。
「酷い顔だ。だが、我も見ての通りで満身創痍。しばらくは回復に専念しないとならない」
「どれくらいで回復するんだ?」
できれば今すぐにアラクネがどこにいるか探しに行きたい。そんな焦る気持ちを押し殺して、彼に質問をする。
「少なくとも1日は寝てないとダメだな」
1日。されど1日。彼女の安否も分からないのに1日。そんなのは待っていられない。
「そうか」
オレはわざと納得したように相槌を打つ。そして、一刻も早く彼女を探し出したいから小屋から出ようと足を進めた。
「おまえ一人では、絶対に勝てない相手だ。だから、我が回復するまで待っていろよ」
小屋を出る前にデミトンに再度の確認を促された。
「ああ、わかった」
もちろん、守るわけがない。好きな人が危機的な状況にあって、そんな悠長にできるか。
「…本当にわかってくれていたらいいのだがな」
「本当にわかっているから安心しろよ」
「…そうか。ならば我も安心して眠れる」
どこか訝しげな、態度をするデミトン。そんな彼も疲労の所為だろうか。声が徐々に小さくなってきている。
「くれぐれも我が寝ている間は無茶をするなよ」
そう言ってデミトンはオレの小屋で床に座り込み、眠りについた。
「悪いな」
オレは守れない約束の罪悪感から聞こえていない彼に謝罪をしてから小屋を出る。小屋の外にある倉庫を開けて、オレは微笑む。
この吸血鬼が煩わしくて、ついつい対デミトン用に大量購入した聖水。それはゾンビ共にとっては劇薬だ。こんなところで役に立つとは人生って何があるかわからないな。
オレは、はじめに聖水を自らの体に振り撒き、樽から瓶にそそぐ。そして、体の至る所にあるポケットに瓶を詰め込む。
さてと、準備は済んだな。準備が済んだ後に再び約束を守れないことに罪悪感を覚えたオレは、
「本当にすまないな。デミトン、おまえとの約束は守れそうにない」
重ねて、そう謝罪をした後に、暗闇の中をかけて行った。




