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第33話 変態達の狂宴

 未明の刻、僅かな松明が部屋の中を照らし出している。オレは町から外れた森にある旧自宅の窓際で腕を組み物思いにふける。あと数時間で日は登り、吸血鬼との戦いは一時休戦となるだろう。そこまでいけば、あとは奴の寝床をあばいて葬りたい。それができれば最高なんだが…


「小屋に逃げ込んだと思えばなんだ? サイゾウ、ついに観念でもしたか?」


 吸血鬼から逃げるために町中を駆け、わかったことがある。この吸血鬼は規格外だ。決して人類が対立してはいけない部類の凶悪な魔物だ。酸による攻撃も、ワイヤーによる切断も、痛いと言うだけで、しばらくすれば平然とした顔でオレを見つけて追いかけて来やがる。

 

「観念? なんのことだ?」


 ハンターギルドは町に現れた吸血鬼の駆除、もしくは無害化なんてハードな依頼をオレに押し付けてあとで見ていろよ。


「吸血鬼にはわからない高尚な悩みさ」


 しかし、このまま依頼の失敗でもしてみろ。彼女もできないままで人生がまた終わるんだぞ。勘弁してくれよ。


 この世には美女がたくさんいるのになぜ俺には彼女ができないんだ。デミトン、おまえにわかるか? 前世から彼女が1度もできなかった者の悲しみと苦しみが!


 ああ、オレの悩みとはなんて高尚なんだ。人類史上はじまって以来の難問だ。いったいどうやって解決をすれば良いのだ。


「なにが高尚な悩みだ! 貴様の顔でおおよその見当がついたわ!!」


 オレの顔を見ただけで、こちらの考えが読めるだと。やはり、奴は古の吸血鬼なのだろうか。神に匹敵したという伝説の化け物。ならば、もうこの手を使うしかないな。


「そうか? なら、これも予想がついたか? 吸血鬼ごときにはきっと予想がつかないだろう…」


「何を言っているのだ? これは!? なんだ?」


 オレの話を遮って口を動かす吸血鬼に天井から降り注がれた液状の物体。


「…な、なんだ!? このヌチョヌチョとした液体わ?」


「見てわからないのか? 天然の油を大量に含んだ粘液性の強いスライムから取れたオイルさ」


 オイルが塗られた奴の筋肉は松明の炎に照らし出されて輝く。それを見たオレはこう思わずにいられなかった。なぜ、奴は女の形態でいないのだ。オイルまみれの美女だからそのヌメヌメは価値があるのに…


 逞しい筋肉の男がオイルまみれだとただのボディビルダーにしか見えない。もう気分は最悪だ。


「オイル? この筋肉美をさらに輝かせるために我にオイルをぬってくれておるのか!? そこまで我の肉体の美しさに魅入られたのか…」


 何をこいつは言っているんだ。魅入られる訳ないだろ! なんで、ムキムキの男を見てオレが楽しんだよ!


「ック、デミトン!! なぜ、おまえは男なんだ!! オレの計画と楽しみが台無しだよ!!」


 オレは女デミトンを想定してその罠を仕掛けたの! 誰も筋肉美なんてモノを求めないわ!!


「なんだ、サイゾウはこっちの姿の方が好みだったのかしら? フフフ」


 そう言って、デミトンは霧のような物体になったと思ったら女になって、ウインクをオレにしてきた。


「神はここにいたのか? 堪らない。オレには我慢できない。おねいさーん!!」


 オレは女デミトンに飛びかかった。そして、オイル塗れの奴の身体を弄る。オレはこれを求めていた。求めていたんだ!!


「フフフ、かかったな。捕まえたぞ? サイゾウ!!」


 オレは奴に捕まっちまった。なんて古典的な手に引っかかってしまったんだ。だが、仕方ないよな。だって童貞なんだもん。本当に許して欲しい。


「この触り心地はたらん」


 オレは顔を女デミトンのオイル塗れの身体に当ててその感触を楽しむ。オレの顔はきっと反省はしているだろう。でも、後悔などの感情は一片もないはずだ。


「やめろ!! サイゾウ!? ああ、そこはダ、ダメなの!! 」


 そう言って奴はオレを慌てて引き離した。クソ、もっと堪能したかったのに。いや、待てよ。こいつは煽り耐性がない。


「なんだ? 捕まえたと言ってなかったか? おまえは人間すらろくに捕まえられない残念吸血鬼だったのか」


「ふざけるな。くそ、捕まえて殺してやる。って、ツルリだと? 力を入れると滑るのか。ッチ、おのれ、オイルめ!!」


 どうやら、デミトンの奴はオレがオイル塗れの身体のお陰で掴めないようだ。ふふふ、これはいいチャンスだな。女体に抱きしめられないのは残念だが、別のことで、貴様を堪能させてもらおうか。


「おお、触り心地がヌチョヌチョネバネバして気持ちが良いね」


 オレは奴のあそこや、あんなところ、こんなところを嬲りまくった。


「や、やめろ!! 私のそんなところを…」


 なんて、最初はデミトンもやっていたが突然の沈黙。そして奴の体が霧状となった。


「ッチ、また性別の変更でもしやがるのか。だが、それまでに楽しめるだけ、楽しんでやるぜ!!」


 オレの1人トレーニングの成果を見せてやる!!


「ここがエエのか? ああ? ここか?」


「そうだな。この大臀筋をもっと舐め回してもらおうか」


 オレが触っていた胸は逞しい大胸筋。ヒップは逞しい大臀筋。ああ、まさに男神様! また、デミトンは男に戻りやがった。


「ッチ、鳥肌が立つわ! 誰が男のそんな場所をなめまわすんだよ。この変態が!!」


「今までの行動から変態の極みにいるサイゾウに言われるとな…」


 見よ。我、肉体美と言って各種マッスルポーズを展開してくる筋肉魔人である変態デミトンにそんな目で見られたくないわ。


「真っ裸であるくのが快感の変態にそんなことを言われたくないわ!!」


「そう、褒めるな。もっと我のムッキムキの筋肉を堪能していくと良い」


 ムフと言って、デミトンは身体を傾斜45度にするのと同時に左腕を曲げて筋肉隆々の胸を張る。あれは確かボディビルの側面からのマッスルポーズであるサイドチェスト!? イヤ、そんなマッスルポースなんて見たくないよ。 


「遠慮するわ! おまえみたいな、変態はこの世から消え去った方が世のためだ!!」


「それはおまえの方だろ? って、なんだ。我になにを振りかけている。黒い粉?」


 神に捧げる至高の美っていっている頭のイカれた変態にとやかく言われたくないわ。


「これを見てもまだわからないか? デミトン」


 オレの振りかけた粉がなにかわからなくて困惑しているな。だが、よく考える頭があれば、わかるだろう? 燃えやすいオイルに黒い粉を見せびらかすように敵に振りかけると言えばさ。


「あああああああああああああああああ!? 貴様!! まさかそれは火薬か!!」


「ピンポーン、大正解! そんなあなたにはスペシャルプレゼント!」


 オレの前に大量に積み上げられている火薬を目にして叫び出すデミトン。


「デミトンが貰えるのはこちらだ。ジャジャーン。煉獄の浄化の炎!!」


 オレはニッコリと微笑み。壁にかけてあった松明を手に持ち、火薬めがけてぶん投げる。


「嘘だろ!? き、貴様、そんなことをしたら!!」


「悪逆非道の限りを尽くしてきた吸血鬼デミトン。ようこそ、ハンターの世界へ。弱い人間のあがきの前に消え去れ!! この化け物が!!」


 オレは窓をあけて建物の外に飛び降り、できるだけ離れるために走る。そんなオレを逃すまいと咄嗟にこちらに駆け寄るデミトン。


「なに、最後だけ。カッコつけているんだ!!」


 だが、吸血鬼には天が味方しなかったようだ。奴の声が悲鳴に変わると同時に爆発音が辺りに響き渡った。


 空に日が昇る中、オレは燃え盛る古い自宅を遠目に見た後に帰路につくことにしたのであった。

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