【エピローグ】 ある公爵の恋物語
あの後――。
チェスター宰相とコンラッド王子は、ブラッドフォードが王権の私物化を行った数々の証拠を国王に提出した。
全貴族と海外の要人の前だ。
国王も庇い切ることはできなかった。
ようやく断罪されたブラッドフォード。
彼はもう二度と、表舞台に戻っては来れないだろう。
彼が目指していた後宮制度は、この事件をきっかけに「国を乱す暴政の象徴」として貴族社会から完全に排除された。
そしてウィリアム王子は、「愛と尊厳を持って公正な政治を掲げる王」として早急に国王の地位を継承することが決定された。
「唯一愛する女性はフローレンスであり、他の妻は娶らない」
次期国王であるウィリアム王子が最初に行った表明は貴族達の度肝を抜いた。
しかし、あの騒ぎの後だ。
否を唱えられる者はいなかった。
フローレンスは恋物語のヒロインとして貴族令嬢や国民から熱狂的に支持されることとなった。
そして即位式が終わり、国王となったウィリアムから、私が受け取った最初の公務は「セレスティナ・ベオグラードとの正式な婚姻」だった。
「愛と尊厳を持って公正な政治を掲げる私の治世の象徴として、アークレイ公爵とセレスティナ嬢には貴族達の指針になってもらわなくてはならないからな」
そう言って、ウィリアム国王は冗談めかして笑った。
公務として受けなくても、嘘偽りなく真っ当に彼女と婚姻するに決まっているだろう。
なんなら盛大な婚礼をあげてやる。
見とけ。
最前列で祝わせてやるからな?
そして婚礼の準備を最速かつ完璧に私は行った。
私の幸せな姿を見せつけるために、サイラスにも招待状を送りつけ、辺境の領地から引き摺り出す手筈を整える。
ようやく私は、セレスティナの愛を手に入れたのだ。
セレスティナと共に歩む、新しい人生の輝かしい一歩目を彩るのに労力は惜しまない。テーブルに置くナプキンの刺繍にまで口を挟んだくらいだ。
ただ、少し浮かれすぎていた感は否めない。
完璧に、抜かりなく整えたはずの婚礼準備だったが、セレスティナは書類を持参した。
「相談したい事がある」と。
ドレスの色だろうか。
装飾品が不満なのだろうか。
それとも各テーブルに置く花の色?
「それで、相談とはなんだ?」
彼女が望むならどんなことでも対応しよう、と私はセレスティナに向かって微笑んだ。
「アークレイ様、婚礼での来客の席次はこちらでお願いします」
満面の笑みを浮かべるセレスティナから差し出されたのは席次票だった。
貴族の派閥関係など気にせず、めちゃくちゃに組み込まれた席次票に戸惑いが隠せない。
……何これどうなってるの?
そしてすぐに気づいた。
これは、セレスティナの望む『他人の美しい恋』のためだけに組まれた席次──
彼女は『婚礼』という貴族達を見渡せる特等席で、他人の恋のロマンスを鑑賞するつもりだ。
君は自分の婚礼も、他人のロマンスの為の舞台にするつもりか!!
今回の主役は私達だぞ!!!!
……まあそんなことを言っても仕方がない。
確かにあの時、私は「この国を君の愛するロマンスで溢れる場所に変えていく」と約束してしまっている。
とてつもなく後悔した。
せめて婚礼の日くらいは除外させてもらうべきだった。
私は引き攣りそうになる表情を内に押し込めて「いいんじゃないか?」とそのめちゃくちゃに組まれた貴族達の席次を受け取る。
今回の主役達は……どこのどいつだ?!
了
これにて完結です。
最後までアークレイの空回りにお付き合いいただき、ありがとうございました!!
永久に振り回される幸せな未来に乾杯っ!
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