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23裏


 あっという間に二時間が過ぎ、映画が終わった。

 画面ではエンドロールが流れていて、この映画の名場面が順に映し出されている。


「……ぐすっ」


 いい映画だった。


 大正時代を舞台にした、大学に通うため田舎から出てきた朴訥(ぼくとつ)な男性とその下宿先の娘の恋物語。


 ありふれた題材かもしれないけれど、だからこそ、この映画の素晴らしさが際立っていたと思う。

 最初はあまり集中できていなかったけど、気が付いたらのめりこんでいて、こうして泣いてしまった。

 

 目の周辺をハンカチで拭き、顔を上げて画面を見る。

 最後のクライマックスシーン、主人公の男性とヒロインが抱き合っている場面が映っていた。


 ……こういうのって、いいなあ。


 最近、こういう恋愛物の作品を見ていると、そう思う。

 この一、二週間は恋愛物を好んで見るようになった。


 ……少し前まではそうでもなかったんだけど。


 真は雑食なので、本でも映画でもドラマでも、恋愛物から戦争物、ホラーなどに至るまで様々な作品を幅広く見ている。


 なので、この四ヶ月の間に私も真と一緒に色々なジャンルの作品を見てきた。

 本はともかく、ドラマや映画は同じ部屋で並んで見ているので当然だ。

 私も特にこだわりはないので一緒に楽しんできた。


 ……でも、これまでの私は恋愛物はあまり理解できなかった。


 面白くないわけじゃないけど、すごく面白いかと言われるとそうでもない、という感じだ。

 少なくとも進んで見ようとは思わなかった。


 それは何故かというと……色々考えたけれど、やっぱり感情移入がし辛かったからだと思う


 私は元男で今は女だ。だから登場人物の男性と女性のどちらに感情移入すればいいのかよくわからなかった。

 例えば、鈍感な男性に女性が怒っている場面を見ると、いきなり怒られた男性に同情すればいいのか、それともいつまで経っても気が付いてもらえない女性に同情すればいいのかわからなくなってしまう。

 

 下手にどちらの気持ちもある程度理解できるため、どちらも中途半端になって、よく理解できなくなっていた。


 ……つい最近までは、だけど。


 今は違う。どちらに感情移入するのかがはっきりと決まった。

 特に意識したわけじゃないけど、気が付いたらそうなっていた。


 先程の映画でもそうだ。

 私は自然と、女性の側に感情移入していた。


 ヒロインの切ない気持ちが伝わってきて、気付いてもらえないのが悲しくて、そしてついにその気持ちが伝わったときは嬉しくて、つい一緒に泣いてしまった。


「……」


 ……それと、考えてみると、今泣いてしまうほどにのめりこんだのにはもう一つ理由があるかもしれない。


 ヒロインの心情と私自身の心情が重なる部分が多かったからだ。

 ヒロインが主人公の男性を思う気持ちと……その、私が真を思う気持ちは一緒だと思うから。


 ……目を瞑ると、抱き合っている二人の姿がまぶたの裏に浮かび上がった。

 私も、真とあんな風になれたらな、と思う。

 

「……ん?」


 その時、ふと真がこちらを見ていることに気が付いた。

 そちらを見ると、真と目が合う。


 さっきまで泣いていたから、目元が赤くなっているんじゃないだろうか。

 

 そんな姿を見られるのは少し恥ずかしくて……でも、真が私のことを見てくれるのは嬉しかった。


「くふふ」


 思わず、顔が笑みの形を作った。


 こんなに近くに好きな人がいる。

 そのことが嬉しくて仕方ない。

 

 今日は最初に勇気を出して真の近くに座ったので、少し体を傾けたら真の腕に寄りかかれそうだ。

 もしそれをしたら、今よりもっと幸せになれるだろうな、とも思う。


 ……恥ずかしくて、なかなか出来ないけれど。

 自分の勇気のなさが、少しだけ憎らしかった。


「……くふふ」

 

 すぐ近くから真を見る。

  

 ……やっぱり、好きだ。


 胸が温かくて、心地いい。

 あの旅行の日から何度も思っていたけれど、人を好きになるというのは幸せなことなのだと、私はもう一度実感した。




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