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17裏


 結果的に言うと、帰省初日に感じていた不安は全くの検討外れだった。


「ユウちゃん、お手伝いありがとう」

「いえ、大したことじゃないですから」


 洗濯物を畳みながらそう返事をする。

 これは別に謙遜じゃない。

 この五日間でのことを思い返すと、この程度は本当に大したことじゃないからだ。


 手伝ったとはいえ食事は全て出してもらったし、部屋も貸してもらえた。

 二日目の買い物では結局色々と服を買ってもらうことになった。


 今回の帰省では、最初から最後まで本当によくしてもらったと思う。


「……」

 

 ……でも、だからこそ疑問だった。

 なぜここまで良くしてくれるのか。なぜ私のような怪しい人間にここまで好意的なのか、この五日間色々と考えたけど全く分からない。


 なんで私を怪しいとは思わないんだろうか。

 私は昔のことを聞かれたら、言葉を濁すことしか出来ない人間なのに。


 真に友達がいなかったから?

 それはあるかもしれない。これまで友達がいなかったから、出来た友達を大切にするというのは理解できる。


 でも同時にこうも思うのだ。これまで友達がいなかったからこそ、近くに怪しい人間がいたら怖くなるんじゃないか、と。

 特に真は金持ちだ。これまで友達がいなかったからこそ、おかしな人間に騙されているんじゃないかと考えるのは自然だと思う。

 

 異世界では貴族の跡取り息子が平民の友達を作ったところ、怪しいと思った親にその平民一族が“処理”された、なんて話もあった。

 さすがにそれは過激すぎるとは思うが、子供が変な友達を作っていたら怪しむのは普通だと思う。


 ……本当に何でなんだろう。


 顔を上げて真のお母さんを見る。機嫌よさそうに鼻歌を歌っていた。


「……あの、聞いてもいいですか?」

「なにかしら」


 意を決して真のお母さんに声をかける。

 その顔は笑顔だった。この五日間そうだったように嫌な気配は全く感じない。


「……どうして私にここまで良くしてくれるんですか?

 ……私、言えないことが沢山あるのに」

 

 やぶ蛇かもしれない。でも、どうしても気になって仕方なかった。

 どうして私のことを聞かないのか。そして疑わないのか。


 結局この五日間、私の身の上話は最初の晩に少し質問されただけだ。

 そして、それだって私はまともに答える事はできなかった。


「私、怪しいと思うんです、けど」


 言いながら声が小さくなっていく。

 自分から言い出したことなのに、もう後悔してきた。


 これで嫌な言葉が返ってきたらどうするつもりなのか。

 異世界にいたときみたいに耳を塞いで、現実から目を逸らして逃げ出すことなんて出来ないのに。


「……そうね、確かに疑問があるのは、その通りね」

「……っ」


 予想していた言葉なのに耳を塞いで蹲りたくなる。

 真は今どこにいるんだろう。

 何故か真に会いたくなった。

 

「でも、ユウちゃんはいい子だから」

「……え?」


 いい子だから?

 突然出てきた言葉に耳を疑う。


「ユウちゃんはとてもいい子よ。何日も一緒にいたからわかるわ」

「えっと」


 ……どう返していいのか分からない。

 いい子だ、なんてこれまでの人生で言われたことが無い。

 

「何で良くしてくれるのか、だったかしら。

 特別そうしたつもりは無いけれど、もしかしたらユウちゃんがいい子だから無意識のうちにそうしたのかもしれないわね」

「それは、その」


 そんな理由、全く予想していなかった。

 というかそれ理由になっているんだろうか。

 感覚的過ぎるんじゃないかと思う。


「ユウちゃんみたいな子が真のそばにいてくれると安心だなって思うの。

 ……ありがとう、ユウちゃん。あの子と一緒にいてくれて」

「……」


 よくわからない状況になって混乱する。よく理解できない。

 ……でも妙に顔が熱い事だけはわかった。

 

「ユウちゃん。これからも真と仲良くしてくれるかしら」

「……それは、その、はい」


 ……いい子だとかはよく分からない。

 でも真のことはわかる。

 仲良くしてくれなんて、そんなこと言われるまでも無い。


「真は、その……私の」


 『親友』だから、と言おうとして、ふと買い物に言ったときの事を思い出す。

 そういえばあの時真のお母さんは別の言葉に言い換えていた。

 あれは確か――


「――ボーイフレンド、ですから」


 真のお母さんが嬉しそうな顔をして笑った。





 ◆





 ガタン、ゴトンという音が聞こえる。

 電車の走る音だ。

 

 場所は家に帰る電車の中。

 真のお母さん達に別れの挨拶をして乗り込んだところになる。


 隣を見ると真は眠そうな顔をしていた。

 昨日は夜遅くまでお父さんと一緒にお酒を飲んでいたようだから、そのせいだろう。


「……ふう」

 

 軽くため息をつく。

 ……終わったなあ。

 

 六日間の帰省が終わった。

 最初はどうなるかと思ったけど、来れてよかったと思う。


「……くふふ」


 しかし、いい子だから、か。

 今でも少し混乱しているが、悪い気はしない。 


「……」


 なんとなく顔が熱くなってきたので軽く頭を振って時計を見る。

 

 目的地に着くまで……あと三十分くらいの時間がかかりそうだ。

 それまでどうしようか。

 行くときは不安で何も手につかなかったけど、今は開放されたのだ。何かしてもいいかもしれない。

 

 ……ああ、そういえば、少し気になることがあったんだった。


「……真、少し調べたいことがあるからスマホを貸してもらっていい?」

「……スマホ?いいよ」


 何を調べたいかというと、真のお母さんが言ったあれだ。


 スマホのブラウザを開き、そこに『ボーイフレンド』と入れる。

 意味は分かっているけど、なんとなく気になっていたのだ。

 無駄かもしれないが今は暇なんだしちょうどいいだろう。


 少しの時間が経って、検索結果が出る。

 一番上に表示されているサイトを選択した。

 そしてそこに書いてある文字を読む。


【ボーイフレンド(boyfriend):恋人の男性、彼氏(英語)、男友達(日本語)】


 ……?

 目が疲れているんだろうか。軽く擦ってもう一度見る。


【ボーイフレンド(boyfriend):恋人の男性、彼氏(英語)、男友達(日本語)】

 

 …………!?


「……え……え、え!?」


 恋人!?彼氏!?

 なんだそれ、そんな意味知らない。何でそんなわけのわからない意味になるんだ。


 衝撃で息が止まりそうになる。


 ……て、あれ?ちょっと待って欲しい。それはつまり、あの買い物のとき真のお母さんが言っていたのは……。


『ボーイフレンド(彼氏)?』

『そうです』


「ああああああああ……」


 頭を抱える。

 心臓が痛いほどはねた。


 え、え!?どうしよう!?

 混乱した頭のままもう一度画面を見る。


 ……いや待て、隣に男友達とも書いてある。

 続きに書いてある事を読む限り、両方の意味があるようだ。


 つまりあれはどちらとも取れるわけで……いやでも……。

 頭の中がぐるぐる回る。地面がどっちだったかわからなくなりそうだ。


「……何かあった?」


 隣から聞こえてきた声でそちらを見ると、真が心配そうな顔をしていた。


「な、なんでもない!」

「そ、そう?」


 混乱した頭でとっさにブラウザを消し、スマホを真に返す。

 あんな画面をいつまでも見ていたら頭がおかしくなりそうだ。


 ああ、でも頭からあの文字が消えない。


「……ど、どうしよう」


 ボーイフレンドには二つの意味がある。

 真のお母さんが男友達の方の意味だと思ってくれていれば問題ない。


 ……でも、もう一つの意味だと思っていたら。


 頭の中を昨日のことがよぎった。


『真は、その……私の、ボーイフレンド、ですから』


「……ぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 顔が熱くて仕方なくて、涙で目の前がにじむ。

 思い切り叫ぶのを抑えるので精一杯だった。


 ……それから、目的地の駅に着くまで顔上げることが出来なかった。

 もうやだ。夢だよこれ。



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