表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

古びた総合病院

 次に意識が戻った時、俺は何処かの大きな病院にいて、患者用の使い古したストレッチャーに乗せられていた。

 いや、厳密に言えば、ストレッチャーに乗せられて、医者や看護師達に周りを囲まれ、着ていたスーツやワイシャツをあらかた脱がされ、人工呼吸器らしきものや、その他もろもろの医療器具を次々に付けられていく、抜け殻のようになった自分の身体を『傍観』しながら見つめていた。


 何時も鏡の中で見ていた自分の全身が、等身大のフィギュアのように、そこにあることには、本当に愕然とさせられた。


 ―俺は死んだのか?


 それを裏付けるかのように、ストレッチャーの脇に立って、自分の姿を覗き込んだ、俺にはそこで慌ただしくしている、医療関係者は誰一人として、気が付いていない様子だった。

 それどころか、何かの安っぽいありがちな物語のようにして、俺の身体をそいつらがすり抜けていく。


 病院関係者が処置を続けているところを見ると、完全に俺の身体は死んだわけではないらしかった。

 だが、今の状況をどうこう自分で出来るはずもなく、俺はぼんやりとしながらその場に立っていた。


 その時、俺を診ていた医師がやりきれない表情で、一言こう言った。


「……もう少し搬送が早ければな」


 呟きのような言葉だったが、俺にはいやにはっきりと聞こえた声だった。

 俺はなすすべもなく、救急外来の処置室を出ると、外の待合の長椅子に座り込んだ。

「……」

 瀕死の瀬戸際に立たされている、急患の対応に、緊迫の度合いを増した、処置室の中の騒ぎとは打って変わって、廊下へ出るとそこは別世界かと思う程に静かだった。


 天井には院内の奥の方までレールが敷かれていて、俺はそれを目にして、この病院が何処であるのかをようやく悟った。

 俺が見ている前で、その敷かれた古びたレールの上を逆さづり状態で、カルテの入った箱ががちゃがちゃとした音をたてながら、院内をゆっくり移動しながら運ばれていく。

 電子カルテが主流になった昨今、これを使っている病院は、全国でもそう多くはないだろうし、今では滅多に見かけない光景だ。


「何だ、俺はここへ運ばれたのか」


 最近受診することは無くなっていたが、ここは自分が子供の頃にかかりつけになっていた、あの総合病院に他ならなかった。


 それから俺はしばらく、病院内部を歩き回った。

 入院用品を揃えられる売店も、喫茶店を兼ねた、今となっては時代遅れのナポリタンを出す、食堂もほぼそのままだった。

 食堂の、店の入り口近くに置かれた、ガラスケースの中にある、スパゲティにフォークが刺さった、色褪せかけたメニューの食品サンプルが懐かしい。

 子供の頃に見た時よりも、そのどちらの店も狭く感じたし、食堂のテーブルや椅子については、記憶の中にあるものよりも、デザインが古臭く錆びついていた。

「こんなに狭かったんだな、本当は……」


その時、『あの想像を超えた館内放送』が突然、俺の真上にあるスピーカーから鳴り響いた。


「ピンポンパンポーン。……斉木(さいき)一真(かずま)さん、お待たせしましたー、どうぞ一階の赤いエレベーター横の『進路相談室』にお入り下さーい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ