41 教会騎士団の合同演習
現在、聖シュルール教会には八つの騎士隊が存在し、神官騎士団と聖騎士団に分かれ騎士団長二名の上に総騎士団長がいる。それがカトリーヌ・フレアさんである。
神官騎士団は主に教会内で警護の任に就いているものが多く、護衛を目的とした神を崇め教会に忠誠を誓った騎士と言われている。
その為、成人の義で職業が騎士以外でも稀に神へ絶対の忠誠を誓ったものが、神官騎士へと昇格出来ることがあるらしい。
聖騎士団は、殆どが天然者で、成人の義によって主神クライヤが、授けるものだと言われている。中には光、聖属性のどちらかを持っていて昇格で成れることもあるが主神の選別は厳しいと言われている。
さて、何でこんなことを頭に入れているかというと、目の前に全騎士団の隊員が並んでいるからだ。
マルルカさんに連れてきてもらったのは、戦乙女聖騎士隊の訓練場だった。
しかもそこにやってきたのが、カトリーヌさんだったのだ。
「ルシエル君、戦乙女聖騎士隊からは出来れば…分かるわよね? 」
「はい。さすがに人も少ないですから、引き抜きはしません 」
「ふふふ。物分りが早くて助かるわ。じゃあいきましょう。あ、ルミナ達もついて来てね 」
『はい 』
こうして数年前まで良く使用されていた総合訓練場に集められた理由ですが、些かフライングし過ぎています。
俺がそう思っていると、カトリーヌさんはこの大人数の前でも平然と口を開いた。
「皆の者、現在警備についているもの以外、緊急の召集に対応してもらったことをまずは感謝する。今回集まってもらった件だが、ここにいるS級治癒士になったルシエル君が一年半後に教会を旅立つ可能性がある。その為、彼を護衛する騎士隊を発足させようと思うのだが、諸君等を彼は知らないし君達も彼をよく知らないだろう。そのため只今から合同訓練を開始する。先に言っておくがこれは遊びではない。今回は各騎士団同士で戦ってもらう。殺さなければここにいるルシエル君が助ける。勝った騎士団にはボーナスを用意してある。神官騎士団は94名聖騎士隊は68名だ。勝敗は各騎士団長の兜に小さいが旗を立てて、それを落としたところで決着とする。個の力か、数の力か大いに競い合ってくれ。これは選考も兼ねているが全騎士団として最初の合同訓練であることを肝に銘じて真剣に行ってほしい。いいな 」
『おぅっ!! 』
その瞬間、空気が振動して揺さぶられるような感覚を覚え、地面が揺れた?と錯覚さえした。それだけ凄い声だった。
俺とカトリーヌさんは上から見渡せる訓練場のVIP席を思わせる場所へとやってきた。
「それにしても教会にこれだけでかい施設があるとは思ってもみませんでしたよ 」
目算では陸上競技場の四百メートルトラックが八レーン程入りそうな広さで吃驚した。
「此処は騎士団が、合同で使う訓練場だから、通常は入れないのよ。ここを使用するには、騎士団長以上の権限がないと許可されないのよ 」
「ああ、だから戦乙女聖騎士隊もここを使わなかったのですね 」
「ええ。あの子達の人数で此処は広すぎるしね 」
「今回は馬も使わないので、神官騎士の方が有利ですか? 」
「ふふふ。それは見てのお楽しみ。」
そう言ったあとにカトリーヌさんは手を上げて下ろした。
その瞬間、空気が変わり怒号が響きわった。
集団戦を見るのは勿論これが初めてで、その凄まじい気合と熱気が訓練場を支配した。
「これが、戦乙女聖騎士隊以外が腑抜けていた騎士団ですか? 」
「私もあなたの師匠を見習って、少しだけ扱いたの。少しは戦えるように戻さないとね 」
そう言ったカトリーヌさんに少し寒気を覚えたが、集団戦の気にあてられて、じっくりと見ることにした。
少し離れた位置なのに自分があそこに居る騎士だったら、まともに戦うことなんて出来なかっただろう。
あまりの怖さに、膝が笑い、動けなくなる可能性が大だった。
戦闘は聖騎士が攻めて神官騎士が守りに入る展開だった。
「戦乙女聖騎士隊が突出していますが、作戦ですかね? 」
「違うわね。あの部隊は強いのよ。努力を継続してきた期間が他とは少し違うから 」
「だとすると、戦乙女聖騎士隊を突破させなければ神官騎士が勝ちますね 」
「そうなるわね 」
その後、騎士団長を固めて終始防御に徹していた神官騎士が数で聖騎士団長を飲み込んだ。
「戦乙女に関しては一人に三人でしたね。」
「ええ。あれがきちんと役割をこなすということね。いつかルシエル君もあそこに立てるかもね 」
「……ははは。全力で拒否しますよ 」
こうして戦闘が終わったところで労いの言葉をカトリーヌさんが掛けて、俺が回復魔法を掛けた。
俺の回復魔法の効果に騎士隊は全員が吃驚していたが、その効果に驚いたのは俺も同じで聖治神様の加護が尋常ではないことが判明した。
「今回の戦いは凄まじいもので、皆さんの凄さを実感することが出来ました。ただ実は今回、騎士団から、新たに騎士隊を作るってことはないです。私も初耳だったので、今回の合同演習のきっかけ作りに利用されただけですよね? 」
「ええ。そうね 」
「ですので、少なくとも一年間は、そういう心配はしないで結構です。ただ、皆さんの騎士団の凄さは実感出来たので、訓練にお邪魔する可能性がありますので、そのときは宜しくお願いします 」
「まぁそういう事らしいから、一月に一度合同演習を行うので気合をいれて職務を全うしなさい。いいわね? 」
『おぅっ!! 』
こうして俺と騎士団の顔合わせが終わったが、そこで質問があった。
「ルシエル殿、宜しいでしょうか? 」
「えっ?私ですか?はいどうぞ 」
俺は困惑しながら、手を上げた神官騎士をみた。
「盾神官騎士のパララギスと申しますが、ルシエル殿は薬学についてどう思われますか?」
薬学、この世界では魔法以外でもポーションなどの回復薬や解毒薬もあるので、対立することも多いと聞いている。
「素晴らしい学問だと思っています。私達は魔法を使って癒したり治したりしますが、いつも魔法が使えるわけではありません。魔封の状態異常や罠などでもありえるのが現実の世界ですから。だから薬学は素晴らしいと思います 」
「ルシエル殿は詳しいのでしょうか? 」
「いいえ。冒険者ギルドで初級と中級の薬学を学んだ程度です。死なない技術を身に付けるのに必死で、見かねた周りの方が常識を教えてくれると言って教えてくれた中に薬学もありました。作ったことは無いです 」
「なるほど。分かりました。ありがとう御座いました 」
「はい 」
「ルシエル君が今後訓練に参加するときは事前に連絡を行うので、各隊とも気を引き締めて訓練にあたってくれることを期待して今回の合同演習終了する。解散 」
こうして終わる訓練でも、魔法ではない怪我、病気の治し方も考えないといづれマズい気がして薬学についても調べることにしようと思って、やるべきことにリストアップされた。
まず明日、迷宮に入ってレベルが上がるかの確認もあるよなぁ。そう思って、訓練場を後にするのだった。




