401 世界を巡る 2
本日二話です2/2
ケティとケフィンは疲れていそうだが、それでも何とか無事な様子でほっとした。
だけどルーブルク王国の騎士達らしき者達は瀕死状態で、ケティとケフィンが何とかルーブルク王国の騎士達を守っている状況だった。
なぜルーブルク王国を守っているはずの騎士達がここまで出張って来ているのか意味が分からなかったが、とりあえず浄化波を発動し、不死者の魔物と数人の魔族を浄化しておいた。
そしてエリアエクストラヒールを発動し、ケティ、ケフィンと合流した。
「無事で良かったよ」
「ルシエル様!! もしかして邪神を?」
ケフィンの再会することが出来た喜びと、邪神を倒したのではないかという期待の目の圧が凄い。
「うん。何とか退かせることが出来たよ。それで彼等は?」
俺が苦笑して答えると、ケフィンよりも早くケティが説明する。
「ルーブルク王国の貴族は一枚岩じゃないニャ。手柄を立てて王女となんとか卿の政治力の強化を妨害したかったのニャ」
「ケティ、ウィズダム卿だよ。ルシエル様、おめでとうございます」
「ありがとう。それでケティとケフィンにはイエニスへ行ってもらおうと思っていたんだけど……」
「仕方ないからルーブルク王国で王女と何とか卿を守っておくニャ」
どうやらケティはウィズダム卿をあまりよく思っていないようだ。だけど王女を好意的にだということはウィズダム卿がケティに何かした可能性が高いな。
ケフィンが苦笑しているから、きっと何かあったのだろう。
上空に出現していた召喚魔法陣と聖域結界が消えているので、全ての召喚魔法陣はテミトポサスが邪神の役割を終えたことで消滅したのかもしれないな。
「それじゃあそこの騎士と一緒にルーブルクの王宮に送るよ」
「その前にライオネル様は無事だろうニャ?」
「ああ。今は帝都を指揮していると思うよ」
「それならいいニャ」
「ルシエル様、ルーブルク王国のことはお任せください。全て終わりましたら今回のお話を聞かせてください」
「ああ。約束する」
ケフィンと最後に約束を交わして、ルーブルクの王宮へ全員を集団転移させた。
「ルシエル君は本当に好かれているな」
「そうだといいですけどね。それではイエニスへ向かいます」
「ああ」
何だかルミナさんをたらい回しにしている気もするが、やはりブランジュ公国へ一人送り出すことは出来ないため、一緒に行動するしかないだろう。
イエニスが終わったらついにブランジュ公国だ。気を引き締めないと……そう考えながらイエニスへと転移した。
イエニスの上空へ転移すると、そこにはイエニス周辺を上空から監視していた警戒に当たっていた鳥人族の姿があった。
彼等は俺とルミナさんが転移したことに驚き、一斉に武器を構えた。
しかし直ぐに俺だと分かると安堵した様子で武器を下ろした。
「いきなり転移してきて申し訳ありませんでした。どうやらイエニスの結界は無事のようですが、どなたか状況を説明していただけますか?」
俺の言葉にその場を指揮していた鳥人族の一人が説明する。
「現在までイエニスに直接的な攻撃はありません。戦えぬ者達は既にルシエル様の屋敷へ避難が済んでいます。ただルシエル様の三名の部下の方達が迷宮に異変を感じたため、迷宮へ向かわれました」
その話を聞いて索敵してみると、かなり不味い状況であることが分かった。
「どうやら未開の森から魔物がもうすぐやってきそうです。冒険者ギルドで防衛準備をお願いします」
「はっ!! それでルシエル様は今から屋敷へ?」
「いえ、魔物を倒しに行きます」
「承知しました」
「お願いします。ルミナさん、申し訳ないのですが、未開の森から出てくる魔物を少しだけ抑えておいてください」
「構わない。助けにいくのだろう?」
「はい。直ぐに合流しますから待っていてください」
「ブランジュ公国へ向かう前のいいウォーミングアップなるさ」
さっきまで邪神と戦っていたからウォーミングアップなんて必要ないでしょうに……ありがとうございます。
「それでは魔物が押し寄せる前線へ転移させます」
「いつでもいいよ」
「いきます」
俺はルミナさんを転移させてから、苦戦していそうなクレシア、ハットリ、アリスがいる迷宮近くへ転移した。
転移したところで俺に向かって魔法の矢が迫ってくる。それを避けることなく魔力を纏った手で掴んだ。
なるほど……。やはりステータスはバグっていなかったんだな。
そう思いながら血塗れで倒れたハットリ、動かぬゴーレムを盾にするアリス、俺に矢を放ったことで顔を青くして固まり、今にも倒れそうなぐらい疲弊クレシアを発見した。
とりあえず三人を守るため聖域結界を発動し、エリアエクストラヒールを発動し、結構危なかったハットリを含めて三人を命の危機から救う。
それにしても凄い魔物の数だけど、どの魔物もかなり強化されているらしく、これだとルミナさんが教皇様にいくら付与魔法で強化されているとしても、打ち漏らしてしまうかもしれないな。
そんなことを考えて周辺の魔物と魔族に対して浄化波を放射状に連続で発動していく。
次々と魔物と魔族が青白い炎に変わっていくが、今までは違い魔物の数が多かったからなのか、それとも強化されていたからなのか、まるで誘爆していくように青白い炎が巨大化していき消えることなく燃え続けていく。
ただこれだけ強力な炎の中で生き残っている魔族がいるのには驚いたが、その数が十体以上だったことに驚いた。
約束通りアヴァロストの下へ転移させ、これで少しは時間にゆとりが出来たのでクレシア達と合流した。
「まずは迷宮の異常を感知して戦ってくれたことに感謝する。おかげでイエニスが襲われる前に戻ってくることが出来た」
「ル、ルシエル様、先程は弓を引いてしまい申し訳ありませんでした」
俺が感謝を口にすると、クレシアは綺麗に九十度頭を下げ謝罪を口にした。
「別に寝返ったとかではなく、普通に敵だと思って矢を放った、もしくは矢を放った直後に俺が転移してきたんだから事故なんだから気にしなくていいよ」
「それでも申し訳ございませんでした」
「よし、それじゃあ謝罪を受け入れた。それで召喚魔法陣を固めていたはずだけど、何があったか聞いても?」
するとクレシアではなく、アリスが疲れ切った顔で状況を説明し始める。
「まず助けてくれてありがとう。魔族と魔物が出現する魔法陣が迷宮の上空に出現したから、私達は万が一に備えていたわ」
「ああ。俺がその魔法陣を聖域結界で覆っておいたんだけど……」
「あれ、凄いわよね。でもその結界を壊そうとする奴らが結界を攻撃していたのよ。その連中を追っ払ったら今度はそこへ空から光が落ちてきて、魔法陣と結界を消滅させたの」
空から……教皇様が精霊を解放するために放ったあれだな。
「ハットリはその時に?」
「いえ、ハットリさんは急に空から現れた魔族の攻撃から私を守って……」
「なるほど……」
クレシアの様子を見る限り、ハットリの想いが成就するかもしれないな。
「それで貴方は何一人でここにいるの?」
「暗黒大陸で邪神の脅威は退くことが出来た。あとは強化された魔物を対処するだけなんだ」
「なんてチートなの! それじゃあ、もう安心なのね?」
「さっきみたいに魔物の集団暴走の可能性が残っているから、まだ安心とは言えないよ」
「貴方達がいれば大丈夫でしょ。あ~安心したらお腹が空いてきちゃった」
食べ物は魔法袋に入っているが、和んでいらる状態ではないので、アリスの言葉はスルーした。
「まだ俺にはやることがあるから、三人をイエニスの学校へ転移させるよ」
「お願い。それで何か指示はあるの?」
アリスがとても協力的なのは何か裏がある気もした。それでも気が利くのは有難いことだ。
「各地の状況を確認する必要はあるけど、物流を止めてしまっているから食料危機になる可能性がある。だからミルフィーネとハニール殿達に食料の備蓄を解放する可能性があることを伝えておいてほしい」
「分かったわ」
「それじゃあ送るよ」
「ええ。クレシアさん、そいつの手でも握ってあげなさい」
「はい」
そのクレシアの素直なところに俺は癒され、微笑みながらイエニスへ転移させ、ルミナさんの下へ転移した。
魔物と魔族の数の多さが瘴気を生み、その瘴気でさらに強化される人類にとって最悪な状況が目の前で起こっていた。
その魔物と魔族を相手にルミナさんは剣舞の如く流麗な動きで魔族と魔物を攻撃し、魔物や魔族の攻撃は全て躱しているようだ。
一瞬でも判断を誤れば魔物と魔族の波に呑み込まれてしまうだろう。それでもルミナさんの動きには安心感がある。
ずっと見ているわけにもいかないので、ここでも浄化波を発動した。
すると青白い波が魔族や魔物へ触れた直後、視界を青白い炎が埋め尽くしてしまった。
青白い炎は徐々に拡大していき、魔物の集団は全て青白い炎とその燃料として消えていく。
その光景を唖然として見ていたらルミナさんがこちらへやってきた。
「凄まじいな。ルシエル君がいれば魔物であろうが魔族であろうが負けることはないだろう」
「俺はこの力が怖いです。レインスター卿はこの力を怖いと思わなかったのか、聞いておくべきでした」
強くなったことで唯一救いがあるとすれば、簡単に死ぬことがなくなったこと、それと魔族を必ず消滅させる必要がなくなった点だけの気がする。
「ルシエル君らしくもない。絶対的な力を得たからと無暗に振うのか?」
「いえ……」
「そうだろう。確かに怖くなるぐらい強くなったかもしれないが、元々邪神と戦っている時点で一般人とは隔絶した強さだったのだぞ?」
確かにルミナさんの言う通りだ。
自分が引き起こした現象があまりに衝撃的だったから怖くなったんだ。ただレベルをカンストしているのだから一般人からしたら元から畏怖する存在でしかない。
「ルミナさん、ありがとうございます。とりあえずやるべきことをしてから悩むことにします」
「ああ。それで今度はどこへ?」
「はい。ブランジュ公国へ行こうと思います」
「そうか。ネルダールや他の迷宮を確認してからだと思ったんだが、そちらはいいの?」
「あっ……」
バザックのことをすっかり忘れていた。
俺の様子を見てルミナさんは俺の頭を軽く小突いた。
「さっさと行くぞ」
「そうですね」
バザックに対しては師匠やライオネルのように妙な信頼感があり、それでいて師匠やライオネルと違って一緒に戦うような連帯感がない。
別に苦手でも嫌いなわけでもないけど、魔法にしか興味がなく心も開かない印象だからな……改善できるだろか? ただ今はそれよりも、いくら人類の敵である魔物が相手だとはいえ、虐殺みたいなことはもうしたくないな。
そう思って転移した俺はバザックを後回しにしたことを少しだけ後悔した。
その理由はバザックが嬉々として魔族と魔物相手に魔法放っていたからだ。
しかもよく見れば何故かバザックの身体から瘴気が立ち昇っているため、どちらが魔族なのか初対面であれば判断に困る程だった。
念のため浄化波を発動すると、生き残っていた魔族は全て青白い炎の中で生きていたので、直ぐに暗黒大陸へ転移させた。
そしてバザックに関しては、青白い炎の中にいるのが不思議だけど楽しいらしく、自分の身体を触ったり、炎に触ったりしていた。
「ルシエル君……任せた」
「ですよね~」
ルミナさんはバザックにドン引きしてしまったので、仕方なく俺が声をかけることにした。
「バザックさん、無事で何よりでしたが、何故瘴気を帯びているのか説明してもらえますか?」
「おおっ、賢者ルシエルか。少し前に精霊石を利用した魔道具を持ち込んだ連中がいたんだが、それを解析した結果、なんと瘴気にも応用可能なことが分かった。他にも魔法陣を少し弄ったら魔物や魔族の魔力に干渉することが出来たのだ。まぁ瘴気と魔力がこの身に逆流してきたのには驚いたがな」
ああ、バザックは正しくマッドサイエンティストだった。それなら長いは無用だな。
「邪神を倒すことは出来たので、これからは人道的な行動をお願いします」
「なるほど。だからその溢れるような魔力なのか……。それならば全てが終わったら魔法談義、そして後人の魔法士を育成する学校の設立に協力してほしい」
平和になるならそれでもいいけど……。
「変なことは教えないという誓約だけはしっかりとしてもらいますからね」
「分かった」
どうやら周囲に魔族や魔物はいないみたいだし、精神的に疲れてきた。
そして今度はネルダールへと転移するが、結界の外を龍となっているナディアが浮遊し、魔物や魔族も索敵で捉えることはなかった。
「戦乙女聖騎士隊の皆さんはどうやらネルダールの住民の方達と一緒みたいですが、会っていきますか?」
「いや、会ったら一緒にブランジュ公国へ行くことを望むだろう。私はそれを断るのが辛い」
「分かりました。ルミナさん、本当にブランジュ公国へ行きますか? 俺だけでも大丈夫そうですよ?」
「いや、私はずっと離れていた故郷がどうなっていようとこの目で見て、出来る限りのことをしたいと思っていることに変わりはない」
「分かりました。それではブランジュ公国へ行きましょう」
こうして俺はルミナさんと一緒に邪神の始まりの地、ブランジュ公国へと転移した。
お読みいただきありがとうございます。
分割2/2
むそう……してるけど、これじゃない感……。
頑張ります。




