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主任と私  作者: まあく
42/60

42.女心は分からない

「ごめんね。志保が考えてくれたプラン、全然実行できなかった」


 週明け月曜日のお昼。会社近くの公園のベンチで、持参したお弁当を食べながら、私はデートの一部始終を志保に報告した。


「プランのことはどうでもいいんですけど」


 話を聞き終えた志保が、呆れたように言う。


「由香先輩は、私の想像のはるか先を行く人だったんですね」

「どういう意味よ」


 私が口を尖らせる。


「先輩のことだから、告白まではいかないだろうと思っていましたが、まさかお泊まりキャンプの約束をしてくるとは思いもしませんでした」

「お泊まりキャンプはやめて。その表現は、なんか、ちょっといやらしい感じがする」

「なんか、じゃないです。いやらしいんです」

「いやらしくない!」


 叫ぶ私をチラリと見て、志保がミニハンバーグをパクリと食べる。

 口をモグモグさせ、それをゴクリと飲み込んで、私を見た。


「まさか、二人で行くつもりじゃないですよね」

「当たり前でしょ!」


 またも大きな声を出す私に、志保が聞いた。


「で、誰を誘うんです?」

「うっ!」


 私は言葉を詰まらせた。

 キャンプに行くと決めたものの、さすがに二人きりでは行けない。それは主任も同意見だった。そこで誰を誘うかという話になり、それぞれにターゲットを決めて土曜日は解散となった。


「主任は、ポジティブ……前江さんを誘ってみるって言ってた」

「前江さんですか。猪野さんは誘わないんですか?」

「猪野さんは、結婚の準備で忙しいでしょ」

「まあ、そうですよね」


 式場選びは大変だとか、引き出物に悩んでいるとか、それは嬉しそうに話す突撃くんの姿は、今や営業部の日常風景と化している。


「じゃあ、男性は主任と前江さんの二人として」


 志保が卵焼きを口に入れる。

 それを飲み込んで、私を見た。


「女性は誰を誘うんです?」

「うっ!」


 またも私は言葉に詰まる。


「それは……」


 意地悪だ。絶対分かって言っている。

 だけど、どうして急に志保が冷たくなったのかが分からない。

 デートの報告をするまではあんなにご機嫌だったのに。


 何も言えないまま、私はお弁当箱をぎゅっと握った。

 どうしたらいいのか分からなくて、黙ったまま地面を見つめる。


 その時、大きなため息が聞こえた。

 続けて、志保の声がする。


「嘘です。すみませんでした」


 見ると、志保が大きく頭を下げていた。


「ちょ、ちょっと」


 慌てる私の前で、志保が顔を上げる。


「由香先輩がすごく幸せそうで、それを見てたら、何だか急に腹が立ってしまいました」

「なっ!」


 驚く私を放置して、志保が残りのご飯を頬張った。口を動かしながらお弁当箱を片付け始め、クロスをキュッと締める。

 それを脇に置いて、志保が言った。


「私でよければ、ご一緒させていただきます」

「えっと、いいの?」

「はい。元々そのつもりだったので」

「そっか。ありがとう」


 何だかスッキリしなかったが、とりあえず志保の約束は取り付けた。

 そのことにホッとした、のも束の間、またも厳しい声がする。


「ただし」


 ドキリとする私に、志保が言った。


「アイス二つで手を打ちましょう」


 女の私が言うのも変だけど、女心は本当に分からない。


「……分かった」

「決まりですね!」


 志保が笑う。


「それで、いつ行くんですか?」

「前江さんが行けるって分かったら、みんなで都合を合わせようってことになってるわ」

「了解です。キャンプ、楽しみですね!」


 完全にいつもの志保に戻っていた。

 ひと仕事終えたような脱力感を感じながら、私は半分しか食べていなかったお弁当を急いで口に運び始めた。


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