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主任と私  作者: まあく
11/60

11.疑問形?

 今日はフロアがとても静かだ。理由は、松田部長と私と志保の三人しかいないから。

 といっても、営業部では時々見られる光景で、とくに珍しいものではない。課長や主任を含め、営業マンたちは外出することが多いし、これで部長が会議にでも出ていれば、志保と二人きりということだってあるのだ。

 だが、今日はそれに加えて別の事情があった。


「私、もう一回行ってみたいです!」


 志保が興奮気味に言う。


「何でも作れちゃう3Dプリンタとか、ミクロン単位で調整された精密部品とか、どれもスゴすぎて感動しました!」


 年に一度開催される、機械関連の展示会。それに昨日志保が行ってきたのだ。

 全国から百社以上が参加する大きな展示会で、うちの会社も毎年出展している。昨日から明日までの三日間の開催で、それに営業マンが何人か行っていることもあってフロアに人がいないのだ。

 私も新人の時に行かせてもらったが、残念ながら、感動するほどスゴいと思った記憶はなかった。なので志保のテンションにはついていけないのだが、無反応も悪いと思ったので、相づちがわりに聞いてみる。


「そんなに面白かった?」

「一日中いても飽きないです!」


 即座に熱い返事が返ってきた。

 志保は、大学時代から多趣味でいろいろなことに興味を持つタイプだった。展示会は、志保の琴線を大いに刺激したらしい。


「じゃあ、明日にでもまた……」


 私が言い掛けたその時、外線が鳴った。

 素早く志保が受話器を取る。


「ありがとうございます。シータテックでございます」


 外線を取るのは新人の仕事だ。

 それを見守るのが先輩の仕事。私は、書類のチェックをしながらさりげなく志保の様子を見ていた。


「あ、お疲れ様です」


 どうやら社内の人間のようだ。


「はい、いらっしゃいます。お待ちください」


 そう言って志保が保留ボタンを押す。そして、腰を浮かせながら大きな声を上げた。


「松田部長、三上主任からです」


 ピクッ!


 私の肩が勝手に跳ね上がった。

 一体何に反応したというのか。


「三上くんから?」

「はい。一番です」

「ありがとう」


 松田部長が受話器を持ち上げる。


「はい、松田です。……うん……うん……そうか」


 人がいないせいで、少し離れた部長の声がよく聞こえた。


「分かった、僕が何とかするよ。……うん、大丈夫。……うん、分かった。じゃあ、少し待っててくれ」


 そう言って部長が受話器を置く。

 何かトラブルだろうか。たしか、主任は今日……。


「長峰くん」

「はい!?」


 突然名前を呼ばれて、イントネーションが疑問形になってしまった。

 部長が驚く。

 志保も驚く。

 私も驚いた。


「すみません。何でしょうか」


 私が顔を伏せながら立ち上がる。

 奇妙な沈黙ののち、部長が言った。


「急で悪いんだけど、展示会に行ってきてくれないか」

「はい!?」


 再びの疑問形に、私を含めた三人が固まった。


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