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主任と私  作者: まあく
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10.解決はしたけれど

 結論から言うと、あの一件はあっさり解決した。

 ポイントは、非通知だったこと。仕事で使う電話を非通知で掛けてくる相手はかなり限られていたようだ。


「営業部全体で見ても、そんなの二人しかいないからな。二人とも俺の担当だったから、笹山の話を聞いて、すぐあの社長だって分かったよ」


 帰ってきた主任が説明してくれた。

 相手は、普段FAXで注文をしてくる顧客だった。七十過ぎの町工場の社長で、主任いわく”独特の人物”とのこと。

 外出中に急ぎの注文がしたかったので担当営業に電話をしたが、つながらなかったので、やむなく事務所に掛けてきたらしい。

 もとは主任の担当で、今は一課の営業マンが引き継いでいる。


「主任、怒られましたよね」


 上目遣いで聞く志保に、主任が答えた。


「いや、逆に怒ってやった。いい加減、非通知はやめてくださいって」

「そんなことして大丈夫なんですか?」

「そういう風に接した方がいい相手なんだ。相手によって対応を変える。営業の基本だ」


 そう言って主任が笑う。

 私と志保が、揃って頭を下げた。


「本当にありがとうございました」

「気にするな」


 軽く手を上げて、主任は席に戻っていった。


「よかった~」


 志保が脱力しながら椅子に腰を落とす。

 私も、志保に気付かれないようにそっと息を吐き出した。


 非通知で掛けてくる相手の番号を知っている。それも営業の仕事のうちなのかもしれないが、素直にすごいなと思う。


「その注文、すぐ処理しちゃいなさい。急ぎらしいから」

「分かりました」


 言われた志保は、座り直してキーボードを打ち始めた。

 社内システムに入力すれば注文処理は終わる。発送も即日行われるので問題ない。ただ、今回の経緯は今の担当営業に話しておいた方がいいだろう。


「それが終わったら、一緒に一課に行くわよ」

「はい」


 志保も分かっているようだ。

 志保は本当に賢い。新人の頃の私よりずっと賢いと思う。


 これは、あっという間に追い抜かれちゃうかも


 などと考えていると、処理を終えた志保がこちらを向いた。


「主任に何かお礼をした方がいいでしょうか? たとえば缶コーヒーとか」


 ちょっと驚きながら、私が答える。


「志保は新人なんだから、そこまでしなくていいわよ」

「そう、ですか」


 なぜか残念そうに志保がうつむいた。

 その顔を見て、私の心がざわつく。


「さあ、行くわよ」

「はい」


 落ち着かない気持ちをごまかすように、志保を連れて、私は足早に一課へと向かった。


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